eスポーツ部を学校に あり?なし?(下)

対戦型のコンピューターゲームで技を競う「eスポーツ」。ここ数年、高校対抗の全国大会が開催され、部活動を発足させる学校も現れるなど広がりを見せる一方、「ゲーム漬け」による弊害などを不安視する声も根強い。果たして、学校教育の中に定着していく余地はあるのか。大会に出場した生徒や関係者の声を通じ、学校教育におけるeスポーツの可能性を探る。


国内初の大会「全国高校eスポーツ選手権」

高校生が同じ学校でチームを組み、対戦型コンピューターゲームの腕前を競う「第1回全国高校eスポーツ選手権」の決勝大会が2019年3月23、24日の両日、千葉市の幕張メッセで開催された。

予選大会は18年12月にインターネット上で行われ、全国計153校が参加した。決勝大会では予選を勝ち抜いたチームが一堂に会し、1日目は3対3で対戦するサッカーゲームの「ロケットリーグ」部門、2日目は5対5で行われる陣取りゲームの「リーグオブレジェンド」部門で、それぞれ準決勝と決勝が行われた。

幅約24メートルの大型ビジョンにプレーの様子が映し出される中、詰めかけた観衆からは幾度も大きな歓声が上がった。決勝大会を現地で観戦した大会スペシャルサポーターのケイン・コスギさんは「高校生の皆さんの笑顔や悔しがる表情がとても印象的だった。スポーツと同じ喜怒哀楽がeスポーツにもあると改めて感じた」と評した。

決勝に進んだ8校の内訳は、国立高校1校、公立高校3校、私立高校3校、高等専門学校1校。そのうちeスポーツ部を擁するのは3校のみで、優勝した2校はいずれも有志チームとしての出場だった。

練習時間と練習日を決め、学業と両立
全国高校eスポーツ選手権で優勝した佐賀県立鹿島高校と、大会スペシャルサポーターのケイン・コスギさん(左)

ロケットリーグ部門で初代王者の栄冠に輝いたのは、佐賀県立鹿島高校。準決勝で当たったのは、高校生ながらオーストラリアのチームに所属するプロ選手を擁し、アジア圏の大会で2位に入った実績もある横浜清風高校(神奈川県)だった。日本で数人しかいない最高ランクの認定を受けたプロの存在は大きかったが逆転勝ちを収め、決勝は大分県立鶴崎工業高校に圧勝した。

ロケットリーグはボールの動きを予想しながら、素早く反応してゴールを狙うゲーム。常に動き続ける分、集中力の持続が求められる競技だ。鹿島高校には小・中学校時代にスポーツで全国大会に出場したメンバーもおり、反射神経の良さを遺憾なく発揮していた。また、初めてとなるオープン会場でのプレーに対戦相手の多くが緊張や戸惑いを隠せない中、同校の生徒は極めて冷静に、落ち着いて試合に臨んでいた。

初代チャンピオンとなった同校の生徒の一人は「学校のモットーは文武両道。週末には複数の教科で大量の課題が出される。決勝大会に向けた練習では、勉強との両立が大変だった」と振り返る。優勝については「チームワークが最大の要因」と分析し、「応援してくれた学校の先生方に感謝したい」と語る。

同校の井手口芳季校長は、自校の教育方針について「部活動にも力を入れる進学校として、バランスを図りながら自己管理するよう指導している」と話す。今回優勝した生徒についても「eスポーツは部活動ではないだけに、より一層の自己管理を要する。そうした中、練習時間や練習日を定め、学業と両立させていた」とたたえる。

一方で、eスポーツ部の設置は現時点では検討していないとのことだ。「部活動にするには継続性や恒常性が必要。今後もそうした姿勢で取り組もうとする生徒が在籍するとは限らず、様子を見る必要がある」と述べる。

eスポーツを積極的に取り入れる高校も
eスポーツ選手権で応援に熱を上げるN高校生

リーグオブレジェンド部門に出場した4校のうち、N高校心斎橋校と岡山共生高校(岡山県)は、eスポーツを積極的に教育活動に取り入れている学校だ。

オンライン学習で知られるN高校は、予選に数多く参加した通信制高校の中で、唯一決勝大会進出を果たした。同校コミュニティ開発部の山田大一さんはeスポーツ部設立の背景について、「本校にはコミュニケーション能力をいかに育むかという課題がある。eスポーツではチーム内での協力が大きな意味を持つため、人間関係でつらい体験をしてきた生徒も、自然と仲間との付き合いの場に飛び込んで行ける」と語る。

「決勝大会の出場選手が家族を応援席に呼ぶなど、自分に自信がなかった生徒が自己有用感を持てるようになってきていると感じた」と予想外の効果もあったという。

大会当日は準決勝で敗れはしたが、顔を合わせたことがないN高校の生徒たちが会場に集まり、横断幕を掲げて応援していた姿が印象的だった。約50人が集まったと山田さんは話し、「交流の機会が少ない中、同じ学校の生徒として興味・関心を語り合える貴重な場になった」と振り返る。

決勝に進んだ岡山共生高校も、eスポーツ部としての参加。ただし、大会前までは同好会扱いで、大会出場に際し、活動時間などに関するルールを定め、順守するとした上で、部として認められた。勝ち上がった8校の中で唯一、主催者が実施する「eスポーツ部発足支援プログラム」を利用し、ゲーミングPCの無償貸与を受けたチームだった。

同校の関係者によれば、同好会を発足させた当初は「勉強に支障が出る」「遊んでいるだけだ」と批判を受けることもあったという。惜しくも準優勝に終わったが、大会終了後は全国の学校から問い合わせが相次ぎ、5月11日には希望する学校に「eスポーツ部の設立・運営に関する情報交換会」を開く予定だ。

同校の後藤浩校長はeスポーツの効果について「本校には留学生が多く在籍する。eスポーツを通じて共通の目標に向かって互いに力を合わせることで、言葉や文化の垣根を越えることができる」と指摘。「スタートは遊びでも、熱中して取り組む中で集中力や判断力が養われる。今後は授業にも取り入れていきたい」と意気込みを見せる。

学校としてどう捉えるか

今秋開催される茨城国体では、eスポーツが初めて文化プログラムとして実施される。そうした中、茨城県内ではeスポーツ部の設立を巡る一連の出来事が話題となった学校がある。県立大洗高校で、18年秋に生徒の一部がeスポーツ部設立を猪瀬宝裕(たかひろ)校長に相談したところ、周囲を巻き込む形で議論へと発展した。

「学校でのゲームは校則違反なのでは」「学業がおろそかになる」といった教員からの懸念を受け、猪瀬校長は19年2月にeスポーツ体験会を開催。出席した国体・障害者スポーツ大会局総務企画課の西野浩二参事兼課長が「eスポーツは年齢や性別を問わず同じ内容で競うことができ、得意なところを伸ばすことができる」と強調するなどして理解を促した。

このイベントには教員の半数以上が参加し、eスポーツが持つ競技性への認識が高まるきっかけになったという。その後、生徒が活動方針として「学業を優先し学業成績の維持向上に努める」「校則に従い高校生としての本分に従って活動する」「体力の向上や健康に留意して活動する」の三つを活動方針として掲げ、教員と話し合った結果、19年度から「eスポーツ競技部」として発足することが決まった。活動では試合終了ごとに戦術や連携を振り返るなど、競技性や協調性を重視しているという。

県教委の担当者は、県内の他校でのeスポーツ導入については「学校ごとに判断すべきこと」と現場に委ねる方針を示す。

学校におけるeスポーツの導入については、関係者の間にさまざまな不安が根強くある。そうした中、各学校が生徒の実態をよく見極めた上で判断していくことが、重要だと言えそうだ。

(小松亜由子)