プロデューサー教師のトライ(上) 弱小チームを花園へ

弱小ラグビー部がわずか3年で全国大会(花園)出場を果たした。それも、たった1日1時間、週3日の練習で――。静岡市にある静岡聖光学院中学校・高等学校は、これまでの常識とは真逆のチームづくりで全国の強豪校と肩を並べるまでになった。近年は「主体性」を重視した部活動改革のパイオニアとしても注目されている。花園初出場のときに監督を務め、部を育て上げた星野明宏校長に、子供や学校をプロデュースする極意を聞いた(全3回)。第1回では、ラグビー部での指導から、生徒を輝かせるための演出の裏側をのぞき見る。


セルフプロプロデュースによるチームづくり
――星野先生がラグビー部の監督として、大切にしていたことは何ですか。

学校は、とても成績が良かったり、スポーツが得意だったりする子供か、あるいはやんちゃだったり、家庭に問題を抱えていたりして、教師が面倒をみなければいけない子供にフォーカスされがちです。でも実際にはそれ以外の、ごく普通に学校生活を送っている子供が大半を占めています。また、学校ではトップだったとしても、社会に出てエリートになる人はごく一部です。

私が生徒たちに一番伝えたかったのは、自分自身をセルフプロデュースすることの大切さです。解散してしまいましたが、SMAPのメンバーは一人一人の個性が確立していて、一人でも活躍できるし、グループとしてまとまるとさらに魅力を発揮します。同じように、学校のクラスも、一人一人の個性を尊重し合って40人のグループになった方が、力を発揮すると思います。

――具体的に、ラグビー部の部員にはどのような指導をしたのでしょうか。

ラグビー部の監督になった当初、部員の間には「どうせ勝てないし、ほどほどでいいや」という空気がまん延しているように感じました。しかも、部活動だけでなく、勉強や人間関係、自分自身の可能性に対しても同じような感覚を抱いていて、とても気になったのを覚えています。気持ちの持ちようによっては、まだまだ「伸びしろ」があるのに、勝手に諦めてしまっている。まずはそこを変えたいと思いました。

部員の意識を変えることから始めた星野校長

そこでまず、「未来ポスター」を作ることから始めました。「20XX年、全国大会ベスト8」という見出しで、東福岡や桐蔭学園といった強豪チームの中に、静岡聖光学院を入れたポスターを部室に張り出したのです。

当時そのポスターを見た人たちの反応を、今でも昨日のことのように鮮明に覚えています。保護者は失笑していました。「転職してきた元気な教師が調子に乗っているな」と。でも、生徒は失笑ではなくて照れ笑いを浮かべたのです。「確かにそうなったらうれしいな」と。大人の方が「できるわけないだろう」と決めつけていたのです。

この「ほどほどではない景色」を生徒に見せて、「君たちは絶対ここまで行けると思うし、そうなったら俺は超うれしい」と話しました。あくまで、教師が勝手に期待してワクワクしているというスタンスです。そうしないと上から押し付けたみたいになってしまいますから、そこは気を付けました。

一人一人をえこひいきする
――部員たちはその後、どう変わっていったのでしょうか。

今でこそ、本校のラグビー部は主体性を打ち出して、自分たちで考えて動くラグビーをしていますが、すぐにそうなったわけではありません。私がラグビー部の監督をしていた7年間はその土台づくりが中心で、自主性とは何かを手取り足取り教えていきました。おかげさまで、現監督の佐々木陽平教諭の下では、自主性の次の段階である主体性に移行して、自分たちで考え、判断し、改善していくサイクルを回し始めています。

短時間ながらも濃密なラグビー部の練習

本校の方針で、その当時から部活動は週に3日、練習時間は90分、冬は60分と決まっていました。これを「90分しかない」と捉えてしまえば話にならないので、「90分だって倒れるくらい練習ができる」と発想を変えました。

練習時の約束事を全部決めて、例えば「順番待ちをする練習」をやめました。待つ時間がもったいないからです。やむを得ず待つ時間ができたら、その最中は必ず何か別のトレーニングをさせるようにしました。他にも、ラインまで走ると決めたら、しっかり最後まで全力で走らせるよう徹底しました。100%の全力と70%の力では、繰り返すうちに差がどんどん広がっていくことを強調して、情熱だけでなくロジカルな思考も交えながら、心理的に働き掛けていきました。

そうやって練習を重ねても、試合ではすぐに勝てるわけではありません。そのため、当初は実感できる成果を意識させるようにしました。例えば、タックルして倒れて、また起き上がって走るとき、足を速くするのは難しいですが、倒れてから起き上がるまでの時間を短くすることはできます。それを意識するだけで、もう一度タックルに向かうチャンスが増えます。こうした意識付けは、勉強が苦手な子供に、必ず点数が稼げるテクニックを教え、努力の大切さを理解させるのと同じです。そうやって、できることを少しずつ増やしていきました。

――チームづくりという点ではどうでしょうか。

部員それぞれに個性や得意技を見つけて、役割を与えていきました。顧問として、部員一人一人をプロデュースする。40人いたら40通りのえこひいきをするのです。

部員に役割を与えることの重要性を強調する星野校長

第一に、チームがもっと良くなるための課題を洗い出し、解決に向けて部員たちの個性や得意領域をマッチングさせていきました。例えば、態度面に課題があれば、注意をするのに長(た)けている部員に「態度改善係」をやらせるといった感じです。その課題が解決すれば、翌年はその係がなくなっていいと思います。キャプテン、副キャプテン、主務は必要だとしても、それとは別にプロジェクト型で、全員が何かしらのリーダーになっているようにしました。

役割を与えるときに注意しなければならないのは「キャラを言い訳にさせない」ということです。ラグビー部にも、「自分は引っ込み思案なので」と言って逃げる部員がいましたが、社会に出ればフォロワーシップとリーダーシップの両方が求められます。多くの人は、状況に応じて必要な役割を演じながら組織に貢献している。だから、キャラクターによって役割を固定しないようにするのです。

やり方はその人なりに考えて実行すればいい。「キャプテンはこうあるべきだから、自分にはできません」と断るのではなく、自身が少しだけ変容することでなれるキャプテン像があるはずです。

(藤井孝良)


【プロフィール】

星野明宏(ほしの・あきひろ) 静岡聖光学院中学校・高等学校校長。1973年東京都出身。立命館大学ラグビー部で活躍し、卒業後、95年に電通に入社。中部支社でスポーツビジネスのプロデュースに携わる。2002年に同社を退職し、教員免許状を取得。07年に同校の教員になると同時にラグビー部監督に就任。09年、10年と2年連続で全国高校ラグビー大会(花園)出場を果たす。著書に「元電通マンの教師が教える 凡人でもエリートに勝てる人生の戦い方。」(すばる舎)。