遠隔システムがつなぐ可能性 OKIワークウェル堀口社長

国が推進する遠隔授業の取り組みが注目を集める中、全国の特別支援学校を遠隔システムでつなげ、生徒が交流する授業を長年支援している会社がある。東京都港区に本社を置くOKIワークウェルは、早くから在宅勤務による障害者雇用を積極的に進めてきたことでも知られている。ICTは障害者の学びや仕事の可能性をどう広げるのか。今年4月から同社の社長に就任した堀口明子氏にインタビューした。


障害者雇用の経験を特別支援教育に生かす
――障害者が働く環境をどのようにつくっているのか。

現在、当社の社員数は85人で、障害者は72人を占めている。そのうち、肢体不自由や内部障害で在宅勤務として雇用しているのは54人いる。ITスキルを持った社員同士がネットワーク上でつながり、チームとしてソフトウエアやウェブの制作業務を進めている。

仕事を進める際は、当社が開発した「ワークウェルコミュニケータ」を活用している。これは、音声だけのシンプルなコミュニケーションツールで、通信回線が貧弱でも問題なく使用できる利点がある。ネットワーク上の「会議室」に関係する人が集まって、打ち合わせができるようになっている。いわば「バーチャルオフィス」だ。

多くの障害者にとって、通勤はハードルが高い。これまでは、能力があっても通勤が難しいことで本人も採用側も諦めてしまうことが多かったが、このシステムを使うことで、在宅勤務でも孤独感を抱くことなく、コミュニケーションを取りながら仕事ができるようになった。

在宅勤務で仕事をする障害者(OKIワークウェル提供)

障害者を採用する際は、業務に必要なITスキルはもちろん、他者とのコミュニケーションがしっかりできるかどうかも重視している。

勤務時間は1日6時間を基本とし、4時間は受け持っている通常業務、1時間は自身のスキル向上、1時間は予備的な時間という形で仕事をしてもらっている。しかし、中には、ついつい仕事に熱が入り、やり過ぎてしまう人もいる。それで体調を崩しては元も子もないので、無理はしない、させないように徹底している。

――特別支援学校のサポートをするようになったきっかけは。

特別支援学校の生徒もなかなか外に出られなかったり、卒業後のキャリアのイメージを抱けなかったりすると聞き、2004年から支援を始めた。

まず取り組んだのは遠隔職場実習。生徒が学校や自宅にいながら就労を体験する取り組みだ。さらには、社員による出前授業も始めた。実際に在宅勤務をしている社員が学校に出向き、仕事の進め方や普段の生活について説明している。社員が、車も運転できるという話をすると、生徒たちの目が輝くそうだ。

特別支援学校同士をつなぐ遠隔合同授業を始めたのは、香川県の小豆島の教員から相談を受けて実施した遠隔授業がきっかけだった。その授業は、社会科見学の一環として、小豆島の名産であるしょうゆを製造する工場と特別支援学校を遠隔システムでつなぎ、教員が司会して、工場の経営者が製造工程を解説した。

そのうわさを聞きつけた他の特別支援学校が参加を希望し、次第に規模が広がっていった。北海道からサケの遡上(そじょう)の様子を中継したり、国立天文台と学校をつなげて生徒たちが仮想宇宙旅行を体験したり、毎年企画を変えて実施している。

さらに、今年から教員研修の分野でも支援を始めた。島根県立大学、同県隠岐の島町教育委員会と連携した遠隔研修の実証実験「OKIアイランドプロジェクト」だ。

特別支援教育には高度な専門性が必要だが、地理的な制約を受ける離島では、専門家による研修や日常的な助言を受けるのが難しい。そこで、同町で特別支援教育に携わる教員に当社の「ワークウェルコミュニケータ」を無償提供して、島根県立大学の西村健一准教授が開発した研修プログラムをオンライン上で受講できるようにした。

また、これまでの実践を通じて培った全国の特別支援学校とのネットワークを生かし、研修テーマに合った講師も紹介している。

このプロジェクトを通じ、教員の専門性が高まり、いつでも専門家に相談できる体制を作ることができれば、特別支援教育の質的な向上が期待される。

現場の実態を踏まえた遠隔システム導入を
――文科省は2020年代早期に、希望する中学校で遠隔合同授業が実施できるように整備する目標を打ち立てたが、現状の遠隔システムを巡る課題は何か。

遠隔システムによる授業の推進は歓迎する。課題は、希望する学校や教員が、遠隔システムを具体的にどのように使い、どんな授業をつくろうとしているかを把握し、それに見合ったインフラが用意できるかどうかだ。その意味で、インフラを整備する際は現場の声をよく聞いて、形にしていくのが望ましい。

島根県立大学、同県隠岐の島町との「OKIアイランドプロジェクト」が始動(OKIワークウェル提供)

例えば、受信側に音声と映像がずれて届くような場合は、通信回線の容量を増やすという対応が一般的だが、「授業で映像が必要かどうか」という点も検討してみてほしい。すると
インタラクティブな要素は音声だけに絞り、授業で使う資料は別の方法で受信側が確認できるようにするという解決方法も浮かび上がる。最初から完璧なものを求めすぎて導入へのハードルが高くなっては意味がない。ある程度の割り切りも必要だ。

それから、使い方が難しすぎると現場では使われないので、遠隔システムのユーザーインターフェースは、誰でも直観的に使い方が分かるシンプルさが求められる。1回きりの特別な授業として遠隔授業を実施するのではなく、継続的な教育活動として展開するにはどうすればいいか。現場を煩わせることなく、子供たちにより良い学びを提供していくことが最重要だ。

――今後のビジョンは。

国連の持続可能な開発目標(SDGs)は「No one will be left behind」、すなわち、「誰も置き去りにしない」ということを基本理念として打ち出しているが、これまで障害者が置かれてきた環境は、「置き去り」にされてきた面があったかもしれない。

しかしこれからは、ITやネットワークによって、障害者が持っている能力を最大限発揮し、可能性を引き出すことができるようになる。その価値観を社会全体で共有することに貢献したい。

OKIワークウェル社長に就任した堀口氏

教育現場への支援にも引き続き取り組んでいく。障害のある児童生徒や教員の直面している課題や悩みに対して、私たちの技術や人材が力になれることがないか、一緒に考えていきたい。こうした課題や悩みを抱えている人は、ぜひ当社に相談を寄せてほしい。

日本の発展には教育が不可欠で、その最前線に立っているのは学校の教員だ。教員が熱い思いを持って、日々子供たちを指導できるよう、私たちもさまざまな支援を続けていきたい。

(藤井孝良)


【プロフィール】

堀口明子(ほりぐち・あきこ) 1962年、新潟県生まれ。85年に津田塾大学を卒業し、沖電気工業に入社。同社広報部長、人事部長、執行役員を経て、2019年4月にOKIワークウェル社長に就任。座右の銘は「精神一到、何事か成らざらん」。趣味は花の栽培。