(新しい潮流にチャレンジ)貧困の連鎖と子どもの成長

教育創造研究センター所長 髙階玲治

 

教師はどう向き合うか
〇貧困の連鎖は広がっている

最近、我が国の貧困の問題が社会的・政治的な課題となっている。学校教育もその影響が大きく、周知のように家庭の貧困が学力低下に連鎖するとされている。
そのような問題状況の中で国立青少年教育振興機構が5月2日に実態調査を公表した。特に注目されるのは、家庭の収入と教育費まで踏み込んだ調査を行っていることである。この調査では、家庭収入を200万円未満(全調査の6.0%)から、1200万円以上(4.3%)まで6段階に分けて行っている。

世帯収入と学校以外の子どもの教育費は、200万円以下では「支出がまったくない」が39.0%、「1万円未満」が37.3%という結果である。200万円以上~400万円以下では、それぞれ26.0%と42.3%であった。

2万円以上の支出をみると、600万円以上の家庭では20~50%に増加し、3万円以上、5万円以上がかなり含まれるようになる。教育費は大きな格差がみられる。ただ、この調査では教育費の支出内容までは行っていないが、ベネッセと朝日新聞の合同調査(2012年)では、小学生はスイミングスクール、通信教育、音楽、地域のスポーツチ―ムなどが多い。中学生は、進学塾、補習塾、通信教育が断然多かった。学力格差を生み出す大きな要因であろう。

ただ、今回の調査では子どもの教育費と自然体験の関係を調べているが、教育費の支出は当然差異がみられた。自然体験が「多い+やや多い」であるが、「支出はまったくない」は32.3%で、「5万円以上」は49.3%である。自然体験の格差については以前の同協会の調査で「体験活動を多く行っている子どもほど自立的生活習慣を身に付けていて自己肯定感も高い」と述べていた(2010年)。今回も17%の差異がみられた。

〇子どもの成長への保護者の努力

そこで今回の調査に示されている教育費の影響について考えたい。貧困の連鎖は大きな課題とされているが、家庭の養育がどのような影響を持つものであろうか。

実のところ今回の調査では、確かに収入の差は極めて大きなものがみられるが、200万円の収入でありながら、教育費2万円以上は5.3%もいる。なかには5万円以上の家庭がみられた。逆に1200万円の収入がありながら「支出がまったくない+1万円未満」が19.2%もいる。世帯収入のみでは測れない養育の問題がある。

その意味で次の調査は重要である。例えば教育費と生活体験の関係である。「高い+やや高い」であるが、支出がまったくないは37.0%である。5万円以上は39.7%で、教育費は生活体験の場合、世帯収入がほとんど変わらない。どの家庭も生活体験の指導には力を入れているのではないか。

教育費とお手伝いの関係もさほど変わらない。教育費と保護者の子どものしつけの関係も若干変わる程度である。つまり、生活体験、お手伝い、子どものしつけは世帯収入にかかわらずそれぞれの保護者がかなり努力している傾向が読み取れる。世帯収入が低いからといって子育てに手を抜いているのではない。

だが、それにもかかわらず教育費と他の項目との関係は重要な差異がある。教育費と自己肯定感の関係をみると、「高い+やや高い」であるが、支出がまったくないは41.1%だが、5万円以上は73.4%である。教育費と道徳観・正義感の関係は52.4%と69.4%である。教育費と自立的行動習慣の関係は47.2%と72.2%である。これらは教育費の増加とともに高くなっている。

自己肯定感、道徳観・正義感、自立的行動習慣という、いわば自律的・内面的な行動規範に教育費はかなり影響すると考えられるのである。貧困の連鎖は人格形成の深部にまで及ぶのではないか。大きな課題である。

〇学校や教師はどう向き合うか

国立青少年教育振興機構の調査に基づいて貧困の連鎖に限って述べてきたが、このような子どもの実態について学校や教師がどう向き合うかという課題が残る。どう考えるべきであろうか。

実のところ、学校や教師は例えば世帯収入と学力との関係に気づいている場合が多い。教育扶助を受けている子どもの把握はできるからである。ただ、家庭の実態にまで踏み込んだ指導はかなり難しい。個人情報保護のせいで保護者の職業も含めてかなり限定される。

しかし問題なのは、学力低下や生活行動に問題のある子どもは世帯収入にかかわりなく存在することである。

最近の学校は遅れがちな子どもに対して宿題の指導のみでなく、補習指導などにも力を入れているが、今回の調査にみられるように自己肯定感や道徳観・正義感、自立的行動習慣が課題であることから、「非認知能力」の育成に一層力を入れる必要があると考える。つまり、学校生活全体の中で、我慢強さ、やり抜く力、自制心、協調性、感謝する気持ちなどの指導の強化である。「学力」のみに傾斜する指導を改める必要がある。

今回の調査で家庭収入を超え、保護者は子どもの生活体験、お手伝い、しつけなど、養育に努力していることが示された。そうした努力に加えて学校や教師が遅れがちな子ども個々に非認知能力を育てる豊かな指導を重ねることが必要と考える。

実のところ、学力で遅れがちな子どもであっても、多様な学習活動の中で「よさ」を発揮する場合がみられることがある。そうした子どものわずかな行動にすかさず教師は指導の手をさしのべる。個々の子どもの「よさ」を見いだし、地道な指導を繰り返す教師の役割が求められるのである。

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