(新しい潮流にチャレンジ)主体を育てる学習活動の展開

教育創造研究センター所長 髙階玲治

 

アクティブ・ラーニングの基本
〇次期学習指導要領の課題

馳文科大臣が5月10日、「教育の強靭化に向けて」と題するメッセージを公表した。次期学習指導要領の改訂に向けて「審議のまとめ」を行うというものである。
その内容には「学習指導要領のポイント」がいくつか示されているが、重要な課題がある。特に次の文言はどうであろうか。

▽「ゆとり教育」か「詰め込み教育」かといった、二項対立的な議論には戻らない。知識と思考力の双方をバランスよく、確実に育むという基本を踏襲し、学習内容の削減を行うことはしない(ゴシックは文科省)。
この文言の前半部分はやや奇異な印象を受ける。今なお「ゆとり教育」の反対は「詰め込み教育」という論議がかなりみられるのであろうか。もしもこの論理であれば、「ゆとり教育」から脱却を目指した現行の学習指導要領は「詰め込み教育」ということになる。むしろ、「二項対立的」な不毛な議論はやめようということではないか。すでに現行の教育課程の「答申」(2008年)で示されていることである。

次に後半の「学習内容の削減を行うことはしない」という考えはどうか。
次期教育課程には、例えば小学校から英語が教科となり、さらにプログラミング学習の必修化などが言われている。現行の教育課程に加えてさらなる学習内容等の導入が構想される可能性が大きい。つまり、教育課程全体としての学習内容の見直しや再構造化が必要とされるのではないか。
さらに直接的には、アクティブ・ラーニング(AL)の導入・展開がある。今回のポイントでは次のように述べている。

▽「アクティブ・ラーニング」の視点は、知識が生きて働くものとして習得され、必要な力が身に付くことを目指すもの。知識の量を削減せず、質の高い理解を図るための学習過程の質的改善を行う。
アクティブ・ラーニング(AL)は、子ども主体の学習活動が主になるため、従来よりも時間消費的になり、学習指導計画に大きな影響をもたらすと考えられる。結果として、学習内容の「厳選」が必要となるのではないか。

しかし、今回のポイントでは「知識の量を削減せず」とされている。先には「学習内容を削減しない」とされ、今回は「知識の量」とある。この両者の意味合いは異なると考えるが、どう関連するのであろうか。果たして「知識の量」や「学習内容」を組み替えずに「質の高い理解を図るための学習過程の質的改善」は可能であろうか。教育課程全体構想の中でスクラップ・アンド・ビルドの考え方も必要ではないか。学力の質を維持・増進するという方略が重要と考える。

〇子どもは未来からの留学生

今回の文科大臣のメッセージは、「教育の強靭化に向けて」である。「強靭化」とは文字どおり極めて強い表現である。その「強靭化」で目指す子どもは「AI(人工知能)の進化など情報化・グローバル化が急激に進展する不透明な時代を、たくましく、しなやかに生きていく人材を育てる」とある。
鈴木寛文科大臣補佐官が『月刊プリンシパル』4月号(学事出版)で、2010年に生まれた子どもは2100年まで生きるから、そのことを見越した教育政策が必要、という意味のことを述べているが、私どもの考える教育はたかだか2020年以後のことである。想定外の社会を生きる子どもたちにどのような「力」を育むか、常に創造的な教育への追究が必要である。

その意味で、子どもは未来からの留学生だと考える必要がある。その学びにおいて、何が最も必要とされる「力」の獲得なのか。どうすれば予測不可能な時代を「たくましく、しなやかに」生きていくことができるか、を考えることである。
それを考える視点として、次期教育課程の中教審の『論点整理』があり、その後の論議を『まとめ』として提示される。それへの期待は大きい。

〇アクティブ・ラーニングへの疑問m20160627_02

ともあれ、アクティブ・ラーニングに的を絞りたいが、ALにはある種の誤解が見られることは確かである。「対話的な学び」が喧伝されすぎて、「活動あって学びなし」に陥るのではないか、という批判はかなり多い。

また、前回の教育課程で「支援」が強調され、それが教師の必要な指導を躊躇させていた。ALも教師が必要な指導を抑制しないかという懸念がみられる。さらに、何よりも「対話的な学び」について教師のカリキュラム・マネジメント力が十分かどうかを危惧する声もある。

そのような批判や懸念はあるが、『論点整理』にみられるALの考え方はかなり確かではないか。その観点を要約すれば、(1)深い学び(2)対話的な学び(3)主体的な学び――である。
(1)習得・活用・探究という学習プロセスの中で、問題発見・解決を念頭においた深い学びの過程が実現できているか。
(2)他者との協働や外界との相互作用を通じて、自らの考えを広げ深める、対話的な学びの過程が実現できているか。
(3)子どもたちが見通しを持って粘り強く取り組み、自らの学習活動を振り返って次につなげる、主体的な学びの過程が実現できているかどうか。

この3つの観点に加えて「論点整理」で示している3つの育成すべき資質・能力、つまり「何を知っているか、何ができるか(個別の知識・技能)」「知っていること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力、人間性等)」の3つの柱を重ねてみると図のようになる。図でわかるように、学習活動を最初から最後まで貫くのは「主体的な学び」である。つまりALの基本は「主体的な学び」であってその活動が「深い学び」に向かって展開する過程で「対話的な学び」を必要とするのである。だが、なぜ「主体的な学び」が基本となるのか。

〇主体的な追究力を育てる

周知のようにわが国のPISAの学力は一時かなり低下していたが、2012年の調査ではOECD参加国中、読解力と科学的リテラシーが1位、数学的リテラシーは2位というV字型回復を果たしている。そうした成果がありながら、何がわが国の子どもにとって課題なのかを次期教育課程に関する中教審への「諮問」(2014年)に示されている。
(1)わが国の子どもたちは、判断の根拠や理由を示しながら自分の考えを述べることについて課題が指摘される。
(2)自己肯定感や学習意欲、社会参画の意識等が国際的に見て低い。
(3)子どもの自信を育み能力を引き出すことは必ずしも十分できていない。

こうした問題傾向の指摘に対して中教審の「論点整理」は何よりも重要な課題として、主体的な学習への取り組みをあげている。冒頭に近い次の文言である。

「予測できない未来に対応するためには、社会の変化に受け身で対処するのではなく、主体的に向き合って関わり合い、その過程を通して、一人ひとりが自らの可能性を最大限に発揮し、よりよい社会と幸福な人生を自ら創り出していくことが重要である」
このようにALで重視したいのは、何よりも「主体的な学び」をどう形成するかである。そのことを明確に自覚しながら、「対話的な学び」を行うことで主体的に学ぶ態度をさらに磨き、「深い学び」に達するように協働しながら取り組むのである。そこに新たな「学習過程の質的改善」が行われると考える。

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