教員の長時間労働是正に向けて、タイムカード導入による勤務時間管理や学校閉庁日の設定、部活動の見直しなど、各自治体でさまざまな業務改善が始まっている。現場に働き方改革を円滑に浸透させるには、どのようなポイントがあるのか。各地に先駆けて取り組んでいる横浜市と埼玉県戸田市を取材した。両市の働き方改革の進め方に着目すると、「当事者の納得感をいかに得るか」の重要性が垣間見えてきた。(藤井孝良)
■サーベイフィードバックによる教員研修
「あなたの職場はお互いの仕事の状況を把握し合えていますか。話し合ってみてください」――。6月18日夕、横浜市教委の研修室で、管理職を含む同市立小・中学校の教員ら約40人が集まり、働き方の改善をテーマにしたワークショップ型研修会が行われた。 同市では、中原淳立教大学教授の研究室と共同で、サーベイフィードバックと呼ばれる組織開発手法に基づく研修プログラムづくりを進めている。サーベイフィードバックとは、組織の健全性に関する分析結果を回答者に提示し、それを基に対話によって問題を解決する手法。同市は昨年、教員の働き方と意識の関係についてアンケートを実施した。研修会に参加したのは調査対象校の教職員で、その結果を当事者に返しながら、働き方の問題に気付かせ、意識変革を起こすのが目的だった。 同調査によると、調査した直近3日間の教員の平均労働時間は1日あたり11時間42分、1日あたりの労働時間が12時間以上の教員は全体の42.0%に上った。……

月額給与の4%に相当する額を基準として教職調整額を支給する代わりに、時間外勤務手当や休日勤務手当の支給を行わないことを定めた「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)」。学校における働き方改革をめぐる議論でも、教員の長時間労働の一因として問題視されている。この給特法の見直しを求め、署名活動を始めた高校教員の斉藤ひでみ氏(仮名)と、さまざまなデータを基に部活動や働き方の問題を指摘している内田良名古屋大学准教授が、給特法の問題を世に問う『教師のブラック残業―「定額働かせ放題」を強いる給特法とは?!―』(学陽書房刊、1600円+税)を緊急出版した。なぜ今、給特法を見直す必要があるのか。2人へのインタビューからその核心に迫る。
■給特法が諸悪の根源
――給特法が問題だと感じたきっかけは。
斉藤 教員として最初に赴任したのは定時制高校で、生徒の主体性を尊重し、授業を大切にしていこうという雰囲気があった。部活動も生徒の意向を尊重し、やりたい生徒がやりたいだけ取り組むもので、理想的な教育現場だった。ところが異動先の学校では、授業研究をする時間的余裕はなく、部活動指導や入試に向けた補習、模試などで土日も追われている。雑多な仕事に疲弊する中で、なぜこんな状況になってしまったのか考え続けていた。 そのとき、内田准教授の『ブラック部活動―子どもと先生の苦しみに向き合う―』(東洋館出版刊)の中にあった、「給特法が諸悪の根源だ」という言葉がとても印象深かった。zそれ以来、給特法について調べ、学校現場が抱えている矛盾の多くが給特法の問題から端を発していると気付いた。 次から次へと仕事が振られるが、それらを全て行うと、到底勤務時間内には終わらない。しかし、勤務時間外の補償は支払われない。……

eye-catch_1024-768_chichibu国立教育政策研究所研究企画開発部総括研究官 千々布敏弥

アンディ・ハーグリーブスの名を知らない教育学研究者はいないだろう。国内では、邦訳が1冊刊行されているのみなので、学校関係者では知らない人がいるかもしれない。  ハーグリーブスが注目されているのは、人的資本(ヒューマンキャピタル)、社会的資本(ソーシャルキャピタル)という、近年注目されつつある資本(キャピタル)概念に加え、意思決定資本(ディシジョナルキャピタル)の意義を提起していることによる。  ヒューマンキャピタルとソーシャルキャピタルの関係は広く知られているだろう。……

教員の実感をデータで見える化したことで、頑張っている教員が評価され、エビデンスに基づいた教育施策が実現するようになる。4年間にわたる埼玉県学力調査のデータから、学力を伸ばすには「主体的・対話的で深い学び」と学級経営が関係し、いずれにおいても非認知能力が鍵となっていることが分かってきた。そして、この埼玉県学力調査をOECDも注目しているという。開発に携わった大江耕太郎文化庁文化部芸術文化課文化活動振興室長と、大根田頼尚文科省高等教育局国立大学法人支援課課長補佐へのインタビュー後半では、埼玉県学力調査の可能性に迫る。
■非認知能力が学力を伸ばしている ――埼玉の学力調査の分析で、どのような指導が学力を伸ばしていることが分かったのか。 大根田 分析を通じて、非認知能力が学力を伸ばすのに大きく貢献していることが分かってきた。非認知能力を調査対象として入れたのには二つ理由がある。どうすると学力が伸びるかを、われわれは見つけたかった。基本的な知識・技能や、それらを応用する力を伸ばすにはどうしたらいいかを調べていると、非認知能力や学びに向かう態度が伸びている子は学力が伸びているという先行研究があった。この研究で示された仮説に基づけば、学校として重要視すべき点が分かってくると考えた。 もう一つは、学校の受け止めの問題として、「学力だけを伸ばせばいい」というスタンスに対して、非常に抵抗があるだろうと思ったからだ。……

妹尾写真教育新聞特任解説委員 妹尾昌俊(教育研究家、中教審委員)

 ■夏休みは何のため?
 もうすぐ夏休み。うちは中学生と小学生の子供がいて、この時期はいつもワクワク、ソワソワしている。いまの子供たちは毎日6時間前後も授業を受けていることを考えると、久しぶりにハードな日々から解放される――という感じだろう。  教職員にとってはどうだろうか。研修や会議、じっくり教材研修、部活動指導などをする予定もあろうが、やはりいつもよりはよほど〝ゆとり〟があるにちがいない。ランチタイムも同僚らと外食する人もいるだろう。日頃、給食指導や提出物のチェックを片付けるため、5分やそこらで給食を終えているのとは大きな違いだ――という人もいると思う。  実は、夏休みの目的や意義については、今ひとつはっきりしない。……

OECDも注目する埼玉県学力・学習状況調査(埼玉県学力調査)の仕組みと、その分析結果から見えてきた教育効果とは――。全国学力調査に合わせ、各都道府県では独自に学力調査を行っていることが多い。中でも埼玉県が行っている学力調査は、個々の児童生徒の「学力の伸び」を測れる画期的な調査だ。当時、同県に出向し、その学力調査の開発に携わった大江耕太郎文化庁文化部芸術文化課文化活動振興室長と、大根田頼尚文科省高等教育局国立大学法人支援課課長補佐に聞いた。
■IRTによる縦断調査
――埼玉県学力調査は、全国学力調査や他県の学力調査と何が違うのか。
大江 大きな違いは二つある。一つは、一人一人の子供を追跡していく、パネルデータによる縦断調査という点だ。埼玉県では個々の児童生徒にコードを割り当てて追跡できるようにし、小4から中3までの約30万人の児童生徒のデータを収集、分析している。 もう一つは、問題の難易度設定や児童生徒の能力測定に、IRT(項目反応理論)という統計理論を使っている点だ。IRTによって、テストごとに出る問題が違っても能力を測ることができる。パネルデータとIRTを合わせている調査はおそらく全国的になく、これほど大規模にやっているのは世界的にもないと思われる。
――IRTとは、具体的にどういうものか。
大江 身近なものでは、TOEFLなどの資格検定試験で多く利用されている。……

子供たちにとって真に必要な教育とは何か、自分はこれからどんな教員を目指すべきか。理想の教育を追求する中で行き当たる「このままでいいのか」という違和感。聖心女子大学文学部教育学科の永田佳之教授と、東京都立武蔵高等学校・附属中学校英語科の山本崇雄教諭、同校生物科の山藤旅聞(さんとう・りょぶん)教諭は、いずれもそんな違和感から新しい学びにたどり着いた教員。今も自己変革を続ける3人が、互いに刺激し合いながら、変容する現代におけるこれからの教育について語り合った。コーディネーターはTeacher’s Lab.代表理事の宮田純也氏。
自己変容する教員、変容していく学校
■子供たちと互いに学び合う、探究する。そして、成長する 宮田 先生方が話されている、子供たちが自律した新たな学びでは、教科書がゴールという教え方は厳しいですね。 永田 お二人は、教科書を教えずして、教科書で教えているのでしょうか。その方法を聞かせてほしいです。 山本 英語なので教科書は使います。……

6月18日に発生した大阪府北部地震で、高槻市立寿永小学校のプール脇ブロック塀が倒壊し、小4女児が死亡したことを受けて文部科学省は学校のブロック塀の安全点検の実施を全国の教育委員会などに要請した(本紙1面既報)。同じ悲劇を繰り返さないために何が必要なのだろうか。
■「違法状態」のままが多数見つかる
今回の事件の大きなポイントは二つある。一つ目は、ブロック塀という全国の学校や通学路の至るところにある設備が倒壊したこと。 二つ目は、倒壊したブロック塀が建築基準法の基準に合致しない「違法状態」にあったことだ。 2011年の東日本大震災を契機に文科省は、学校施設の耐震化を進めてきた。……

子供たちにとって真に必要な教育とは何か、自分はこれからどんな教員を目指すべきか。理想の教育を追求する中で行き当たる「このままでいいのか」という違和感。聖心女子大学文学部教育学科の永田佳之教授と、東京都立武蔵高等学校・附属中学校英語科の山本崇雄教諭、同校生物科の山藤旅聞(さんとう・りょぶん)教諭は、いずれもそんな違和感から新しい学びにたどり着いた教員。今も自己変革を続ける3人が、互いに刺激し合いながら、変容する現代におけるこれからの教育について語り合った。コーディネーターはTeacher’s Lab.代表理事の宮田純也氏。全3回。
■求められる学び
宮田 新しい時代の中で、教員の役割も大きく変わっていくのですね。 山本 教員がリアルな社会と子供を結びつけることは重要です。リアルな活動を通して抱いた疑問を、それぞれが学問的に深めていくようになります。英語であれば自然に文法書を開くような。リアルな社会に預ければ、「分からない状態」という混沌の中から自分たちで問いを見つけ、答えを見出していく。小さな子を砂場に入れれば、自分で遊びを作り出すように。 山藤 子供たちが問いを見つけて探究を始める、一番のエネルギー源は原体験。心が動く本物の体験だと思います。……

子供たちにとって真に必要な教育とは何か、自分はこれからどんな教員を目指すべきか。理想の教育を追求する中で行き当たる「このままでいいのか」という違和感。聖心女子大学文学部教育学科の永田佳之教授と、東京都立武蔵高等学校・附属中学校英語科の山本崇雄教諭、同校生物科の山藤旅聞(さんとう・りょぶん)教諭は、いずれもそんな違和感から新しい学びにたどり着いた教員。今も自己変革を続ける3人が、互いに刺激し合いながら、変容する現代におけるこれからの教育について語り合った。コーディネーターはTeacher’s Lab.代表理事の宮田純也氏。全3回。

新しい学びの魅力に導かれて

■それぞれを変えた“違和感”
宮田 今回は、「教師が抱える“違和感”の正体」というテーマです。山本先生は著書『なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか』で、「現在日本の教育界には、これまでに経験したことのない大きな変化が訪れています」と述べられていますが、山藤先生は生物の教師として、そのような「変化」の訪れ、必要性をどのように感じていますか。 山藤 私は10年前に都立両国高・附属中に異動しました。その前の学校では、「オール実験」の授業を展開した結果、学ぶ楽しさに目覚めた生徒たちは、今まで寝てばかりいた授業に関心をもち、休み時間から勉強するような生徒も現れ、チャイムがなっても実験室から出ていかない状態になりました。生徒の変化にとても自信をもちました。 でも、両国に異動して、山本先生と出会いました。英語の授業で、隣の生徒同士、クラス中が英語でしゃべってる様子を見て、インスパイアされました。実験という「飛び道具」のない座学でこれができるのだから、生物でもできないわけがない。アカデミックであり、かつ能動的に生徒が学ぶ授業。それが必要だと思いました。 山本 私はもともと中学の教員で、高校受験に向けた授業に違和感を抱いていました。……

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