科学技術の近未来予測 人間を探究し問いを育てよう

小澤淳日本科学未来館科学コミュニケーション専門主任に聞く

最先端のアンドロイド「オトナロイド」の横に座る小澤さん
最先端のアンドロイド「オトナロイド」の横に座る小澤さん

ウェアラブルでいじめを予防 とてつもない革新起こるかも
15年、20年先の予測は難しい

◇日本科学未来館の小澤淳科学コミュニケーション専門主任に伺います。2030年、近未来の科学技術は、どんなふうになっていますか。

◆まず、15年、20年先の未来予測が、実はいちばん難しいのです。100年後のほうが、夢や理想を掲げやすいからです。その点、15年、20年先は理想とも現実とも少し違うので、そこを予測するのはたいへんです。15年前の2000年に、例えばスマホがこんなに普及し、誰もが位置情報を持っているとは、予測できていなかったでしょう。

◆そうした中で考えていくと、IT分野はこれからも、すごいスピードで発展していくでしょう。エネルギー問題については、ガソリン車に替わるものが、かなり進化していると思います。食糧問題では、農業にITをより大胆に取り入れていく道が開けていくでしょう。地理空間情報を衛星やセンサーを利用して農業を効率的に行う技術は、かなり進むでしょう。アメリカのような大規模農業ではない日本の集約農業でも、地理空間情報の有効活用は、より進んでいきます。

◆今、科学技術振興機構(JST)のCREST(クレスト)というプロジェクトの中で、農業の中にITをうまく活用していこうという事業が走っています。10年後、15年後には、それらの成果が市場に現れ、役に立つようになるでしょう。水産資源についても、ITを使って資源管理をする技術が、高度になるでしょう。

◇農業や水産のそういう面などは、やがて教科書に載ってくるのでしょうね。

◆そうですね。

◇塩水で稲を育てる技術など、日本発のたいへん高度な技術、社会の役に立つ技術が、一般には案外知られていないようですね。

スパコンがスマホに入る可能性も

◆そのへんは、PR不足なのでしょうね。こうした技術は、現在の延長線上にあるものですが、2000年からの15年間の技術革新を見ると、今の時点では、それは少し無理だろうといった技術も、案外、到達するのかもしれません。例えば、思いきったことをいえば、スーパーコンピュータ「京」がスマホに入るとか。まさかと思うことが、可能になるかもしれません。コンピュータという考え方自身が、もはや古くなるのかもしれませんね。生命科学の分野で、ものすごいブレークがあるかもしれません。iPS細胞や人工臓器などは、着実に進むでしょう。

◆国家プロジェクトのImPACT(インパクト)では「破壊的イノベーション」を目指しています。十数本走っていますが、1本でもものになればいいくらいの気持ちでやっています。この発想は、これまでと違います。国家的な研究費を付けるのなら、必ず成果を出さなければならないといった発想ではないのです。「破壊的イノベーション」とは、まさにそういうことです。なにがあってもへこたれないロボットなどが研究されています。

◆脳の研究もあります。今の検査は、非日常の検査機器に入って行いますが、もっとポータブルなものになる。日常生活の中でストレスを感じない機器を使って検査する。そんなものを研究しています。脳科学による研究が進み、コンピュータが進化を続けていくと、意識や自発性などが生まれるかもしれません。そうなったら、怖いですね。コンピュータが、地球環境を破壊している元凶は人間だと判断したら、人間を排除していくかもしれません。

◇アニメ「攻殻機動隊」の「ゴースト」のような世界観も、現実味を帯びてきますね。

◆「攻殻機動隊」は非常によくできていて、当館でも関連イベントを行いました。

学校ではユニークな発想を大切に

◇ウェアラブル・コンピュータやフレキシブルペーパー等が普及して学校に入っていったとき、学校はどんなふうになっていくのでしょうね。

◆ウェアラブル・コンピュータは間違いなく普及するでしょう。ストレスや集中力が捉えられると教育に生かせるでしょう。子どもたちの集中力が落ちてきたのをウェアラブルで捉え、先生がこれを把握しながら授業を進める。ストレスがたいへん高い子どもは、いじめを受けている可能性があるなどが分かると、指導しやすいでしょう。先生や大人の目からは仲良くしているように見えてもいじめがあるのがストレスの高さから分かります。また学習上のつまずきをビッグデータから捉え、それをエビデンスとして学習に生かしていくといった方法もより容易にできていくでしょう。

◆そういう社会の中で先生方には、コンピュータでできることと、人間対人間としてできることがあります。コンピュータやネットワークが進めば進むほど、先生は、人間でなければできないことは何かを、今よりも、もっと考えていかなければならないでしょう。子どもたちの学びをどのようにコーディネートしていけばよいか。小さなネット社会の中で視野が狭くなっている子どもたちの視野を、どのように広げていくか、などです。

◆一方、経済格差からくる教育格差の問題があります。高度なIT機器を手にできない家庭の子どもたちはどうなるのか。そこのところも、よく考えていかなくてはなりません。

◇2030年には、現在の小1、成人年齢が引き下げられれば、幼稚園児あたりが成人となります。そんな今の子どもたちに、科学の視点から、近未来に生きていくメッセージを。

◆今の小学生の65%は今はない職業に就くだろうといわれています。今やっている勉強以外に多様な興味関心を持ってほしいです。ITは高度に進んでいきはしますが、人間がやることはなくなりません。コンピュータにはできない創造性や芸術性、意思決定などは、やはり、人間でなければ発揮できません。

◆何か分からない現象や事象に出くわしたときに、それまでにない新しい発想で考えていく、仮説を設定するといった分野は、コンピュータは苦手です。そこには、コンピュータが利用できるデータがないからです。コンピュータとは違うユニークな解答を出せる創造性豊かな人が、たいへん貴重になるでしょう。インスピレーションや直観力が重要です。型どおりの学びを突き抜けるような、突飛な発言を、先生は大事にしてください。

◆そこで重要なのは、なぜそう言えるのか、なぜそう考えられるのかを言葉にし、相手に伝える営みです。古い発想から脱しきれないと、先生は、未来を生きていく子どもたちを育てるのは、難しいかもしれません。言い換えれば、問いを作ることができる子どもを育てなければならないのです。それは、ロボットにはできません。科学的にものを見るとは、多様な見方、捉え方、考え方をしていくことです。そういう授業を、ぜひ工夫していってください。

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