(学校図書館に寄せる思い)書物がそこにある喜び

児童文学作家 こやま峰子

 
物資の乏しい国民学校低学年の戦時中には、現在のような美しい絵本など、身の回りには見当たらなかった。けれど、祖母の家にいくと、幅13センチほどの小さなおとぎ画帖を読んでくれた。物語の題名は右から書かれていた。

祖母は従兄たちを集め『一寸法師』などを読む。この時ばかりは、いつも走りまわっていた従兄たちも、正座しておとなしく聞く。

私自身は〈フレッドという、正直な若者がありました。〉ではじまる巌谷小波・文の『浮かれ胡弓』がお気に入り。子ども心にも、なんとなくモダンな匂いのする物語が未知の世界へと導いてくれた。

敵機B29が落とす焼夷弾で町が焼かれ、人々が傷つき死に向う悪夢の現実を忘れさせてくれた。戦争は激しくなるばかり。

私は一度も訪れたことのない、みかん畑の山間にある親戚に預けられた。旅立ちの日、『強い子よい子』という童話を手渡された。強くもなく、良い子でもない私は、あまり好きな本ではなかった。

『浮かれ胡弓』のおとぎ画帖が欲しいとはとてもいえない。当時、「欲しがりません勝つまでは」という考えが子どもたちにも浸透していた。我慢するしかない。

終戦を迎え、東京にもどると、あたり一面、焼け野原。すべて焼き尽くされ何もない大地が広がるのみ。人々は食べていくのが、やっとの時代。

学校は図書どころではなかったと思う。本などは夢のまた夢。贅沢品だった。戦火から生き延び、命さえあれば有難いという日々だ。

小学校は2部授業で、教室は、ぎゅうぎゅう詰め。教室の後ろまで机が並べられていた。天気のいい日は藤棚の下の野外授業。青空に浮かぶ雲が食べものに見えてしまう生活だけれど、子どもたちは元気だった。

小学校を卒業して東京の私立の中学校に入学する。下町は戦災を受けたのだが、神田あたりは焼け残ったようす。中学校の図書館は大学まで共用だったので、膨大な量の蔵書があった。

初めて見る書庫の広さに驚くばかり。こんなにたくさんの本を死ぬまでに読み切れるのだろうかと心配する井の中の蛙だった。

毎週、図書館から貪るように本を借り出し、夢中になり読む。物語の主人公に心をときめかせた。貸出窓口から書庫を眺めるのが好きだった。

「すごい! この世にはこんなにたくさん、本がある!」。それだけで幸せだった。貸し出し用紙にリクエストの書名を書く。図書係の人が本を探しに行く。待つ間、何段もの本棚に積み重ねられている書物をのぞき見るだけで楽しい。

書物には不思議な魅力がある。この奥深い魅力を多くの子どもに知ってもらうためには、身近にある学校図書館の充実が何よりと思う。

多くの子どもたちに、読書の喜びを知ってもらい、豊かで穏やかな日々を過ごしてほしいと切に願わずにはいられない。

 

 

明星大学教育学部特任准教授 深井薫

 

学級経営の基盤として活用

2016(平成28)年の幕が開けました。学校司書が法制化され、学校図書館がさらに充実する1年でありますよう、願っております。

私にとって、小学校の図書館は宝の山でした。国語の教科書に「大造さんとガン」の話が載っていれば椋鳩十の作品を、またファーブルやシートンの本などを、興味のままに乱読しました。

シュリーマンやパスツールに憧れたのも、読書からでした。夏目漱石や志賀直哉、川端康成の本など、少々背伸びをして読んだものです。

6年生の夏休みには、数人の子と学校図書館の本の整理を手伝いました。図書の分類に従って本を並べていくのですが、興味をそそられるといろいろなジャンルの本のページを開いては、わくわくしたのを覚えています。

学校図書館で行われる読書クラブにも加入しました。読んだ本の感想を読書記録としてノートに書きました。今も本の記録を取っているのは、その影響でしょうか。

中学生のときは、学校図書館から借りたアガサ・クリスティなどの推理小説に夢中になりました。また、思春期の熱病にかかったように太宰治に熱中しました。

高校では、司書の方とも仲良くなり、本を紹介していただいたり、感想を述べ合ったりしたものでした。

学校図書館は、私に人生を教えてくれた宝箱でした。

ITが日々進化していく現代社会にあっても、一字一字を追いながら思索を深める読書は、豊かな人間性を養うために必要なものです。学校図書館は、知識の情報基地であると同時に、思索の材料の宝庫です。人間性を高める重要な役割があると考えます。

学校図書館は、小学校では教科や総合的な学習などの学習センターとして、役割がますます重要になっています。授業とともに、それを支える学級が基盤です。学級があたたかく、一人ひとりの居場所があれば、学力も上がり、いじめもなくなると考えます。

学級の良好な人間関係を構築する学級経営に、学校図書館をもっと活用してもよいのではないでしょうか。

ぜひ、学級担任と学校司書が連携し、意図的、計画的に安心できる学級にする仕掛けづくりを考えていただきたいと思います。

たとえば、お楽しみ会のためのゲームや劇、歌、合奏などの本を仲立ちとして、子ども同士、横の人間関係を紡いでいく。本の紹介をし合って、共通の話題から気の合う子をつなげ、人間関係をより深く、強くしていく。本で調べることを通して学び合い、高め合い、磨き合える集団に高めていくなど、学校図書館を学級経営という違う視点からも積極的に活用していただけたらと思っています。

学校司書が配置され、児童生徒ばかりでなく、教員にとっても力強い味方です。ぜひ連携し、子どもたちのために学校図書館を活用していただきたいと思います。

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