【連載】くちから語る健康 第36回 学校保健で全児童に健康を

日本大学歯学部 医療人間科学教室教授 歯学博士 尾﨑哲則

 
 最近、わが国における子どもの健康と家庭の貧困格差について、いろいろな報告が出てきています。

家庭の経済格差によって、子どもの健康に格差が生まれているという研究・報告は、医療がほとんど自費であるアメリカ合衆国などでは、かなりありました。

国民皆保険制度を維持している日本で、このような話が出ること自体、不思議な感じがしています。しかし、現に、報告がある以上、何らかの問題が生じており、その結果であると考えられます。

東京23区の地域データ(東京都の学校保健統計)をみれば、う蝕の被患率(う蝕経験率=永久歯・乳歯どちらでも今までにう蝕になった歯を有する者の率)、未処置歯所有率(むし歯の処置が終わっていない歯を有する率)の状況が、区によってまったく違うのが分かります。

一方、通常なかなか見えてこない家庭の収入状況は、税の方向からみることができます。そのひとつが、1人当たりの課税額(ほぼ年収に比例)です(東京都税務年報)。

そこで、小学校1、2年生う蝕の区ごとの未処置歯所有率と1人当たりの課税額をみると、課税額の高い区ほど、未処置歯所有者率が低いという負の相関傾向がみられます。

この事実をマスコミ関係者は、「貧困家庭ほど子どものむし歯が多い」という表現で書き立てます。しかし、よく考えると、区ごとのデータでは、このようには一概にいえません。対象児童数が区ごとに極端に違います。また、特別区では、日本の他の地域に比べて、地元の公立学校への就学率がかなり低い傾向にあります。

書きやすいのかもしれませんが、むし歯の処置状況について書き立てる傾向にあります。未処置歯の話を持ち出すのは、受療行為について言及したいようです。特別区では、義務教育修了まで、医療費の自己負担分を区が給付していますので、「親が忙しくて、歯科医院へ連れていけない」などと書いています。経済格差を問題にしても、児童の口腔保健状況が改善されるわけではありません。このように、受療の話を学校保健に持ち込むのは、海外ではあまりみられません。

むしろ、原則論に従って、う蝕そのものをつくらないことが極めて重要です。今までも学校では、健康づくりのためのさまざまな健康教育だけでなく、保健指導を個別に丁寧に行っています。子どもの家庭での経済格差を感じさせず、全ての児童に健康を創っていくことが、改めて重要だと思っています。

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