【連載】くちから語る健康 第37回 上唇小体付着異常に着目

日本大学歯学部医療人間科学教室教授・歯学博士 尾﨑哲則

 

昨年の定期健康診断の結果をまとめた学校保健統計が、1月下旬に発表されました。

何度も話してきたように、12歳の永久歯1人当たりの平均う蝕経験歯数(う歯になったことのある歯の数=DMFT Index)が、とうとう1・0を割って0・90になりました。

平成7年時点で3・72だったので、この20年間に2・82低下しました。

調査を開始した昭和59年では4・75で、以後毎年減少してきました。これは大きな成果です。同時に、新たな課題が出てきました。

平均値が大きく下がりましたが、う蝕経験者率とう蝕経験歯数のバランスを計算していくと、相変わらず「う歯」を4歯以上持っている児童生徒がいることがうかがえます。

逆にいうならば、口の健康格差が、学校や小さな集団の中でも見えてきました。「う歯」を多く持っている児童生徒に治療勧告書を渡しても、多くの場合、効果がないことが知られています。

この背景を考慮し、児童生徒を中心において、例えば養護教諭をキーパーソンにして、学級担任などと連携して保健指導や健康相談にのるのが必要であると思われます。

いわゆるハイリスクアプローチの一種と考えられます。ポピュレーションアプローチによって、学校全体の健康度は上がったわけです。

そこで今度は、取り残されたハイリスク者に焦点を合わせていこうというわけです。この対応が、今後の大きな問題かもしれません。

その一方、う蝕が減少したために、今まであまり関心がもたれなかった上唇小体(舌小帯とは舌の下面から下顎の歯肉の内側に連続しているひだ)付着異常に目がいきます。このひだが、舌尖に近い部位まで付着している場合をいいます。

その程度はさまざまですが、重度の場合には、舌を前方に突出させたときに舌尖部がハート状にくびれます。

食べるのが遅く、咀嚼・嚥下障害をきたしたりします。歯並びに影響する場合があり、下顎正中の歯間離開を起こす人もいます。

発音の問題としては、舌尖部の硬口蓋、および歯肉への接触不十分によるサ行・タ行・ラ行音に対する構音障害(いわゆる舌足らず)をきたします。

このような児童は、本人の状況(会話や摂食、心理的側面)での問題点を十分に考慮しないで、舌足らずとして片づけられると、その後の対応が十分ではない状況がしばしば起きています。

養護教諭が学校歯科医との連携をとりながら、保護者とよく話し合うのが重要です。最終的には、外科的治療が適応となる場合があります。
う蝕が減った分だけ、これからは、従来とはスタンスを異にした観点からの児童生徒への健康支援が必要と感じています。

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