【連載】口から語る健康 第44回 フロッシングの効果について

日本大学歯学部医療人間科学教室教授 歯学博士 尾﨑哲則

 

最近、日本のいくつかの新聞の片隅ですが、「フロッシング(フロスの使用)は効果がない」といった記事が掲載されました。

アメリカでは、1979年に公衆衛生局長官の報告書で初めてフロッシングが推奨され、その後は5年ごとに改訂される「Dietary Guidelines for Americans(米国人のための食生活指針)」でも、毎回使用が推奨されてきました。この指針に記載されるためには、その内容が科学的根拠(通常、これをエビデンスといっています)に基づいていることが法律で規定されています。

ところが、AP通信が2015年にFOIA(情報公開法)により、その根拠を請求したところ、フロッシングの推奨にはエビデンスが低いあるいは存在していないのを政府が認めるという事態になりました。その後、アメリカ合衆国保健福祉省と農務省は、16年に改訂された指針からフロッシングの項目を告知なしに削除しました。

とはいえ、過去にはフロッシングを含む歯みがきの効果を調査した研究結果も公表されています。それらの内容をまとめて評価したレポートが11年に発表されているのですが、そこでもフロッシングで期待できる「エビデンスは全体として弱く、非常に信頼が難しい」とする結論が出されています。

ここで、結論だけを見ていると、フロッシングは無効のようにみえます。しかし、このエビデンスが難しいのです。ここでいう、科学的根拠とは、ヒト集団を使った研究の効果論です。動物実験や細菌を使った実験などは一切含みません。しかも、ある程度大人数の人を使って統計的な手法を用いて結論を導きます。

そのため、この10年間に実施された25件の研究データについて検討しても、対象とした研究の多くは、歯ブラシを単独で使用した場合と、フロスを併用した場合を比較したもので、いずれの研究もフロスの使用を支持するエビデンスは弱く、信頼性は極めて低いものであり、研究の質も低く、バイアス(偏り)が生じている可能性が中程度または高度であるとの結論でした。

しかもどの論文もフロスの使い方やフロスによる歯垢の除去などについての検討は低いものでした。そこで、歯周病治療の専門家たちからは、裏づけるエビデンスが弱いのは認めるが、研究の対象者らがフロスを正しく使っていないためだという指摘までしています。

このような観点から、学校保健での歯科保健指導を評価すると、ほとんどの項目は、エビデンスが低いものになる可能性があります。高度な診療方法や特定の人しか行っていない保健行動などは、エビデンスがあるかが重要なのは当然ですが、日常生活のなかで行われている清潔行動は、ある意味でマナーの部分もあり、一概にこのような評価の対象にするのはいかがなものかと考えています。

少なくとも、正しい方法でのフロッシングは、歯口の清掃状況を大きく改善するのは事実であります。これが、歯科疾患を予防していると考えられています。一つの記事が重要であるのは否定しませんが、エビデンスを求めることを、日常での児童生徒の指導に直接反映させるのは、少し勇み足のように思われます。

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