【連載】口から語る健康 第46回 歯科疾患の実態と子供の現状

日本大学歯学部医療人間科学教室教授 歯学博士 尾﨑哲則

 

このところ、家庭の経済格差が広がりつつあるという報告が相次いで出されています。実際にそれを体感する場面に、しばしば出会います。学校保健の現場では、定期の歯科検診が「学校保健安全法」によって実施され、その結果に基づき、治療などの勧告がなされています。しかし、治療に関わる費用は、原則的に各家庭に任されています。そこで、問題が生じます。

歯科の診療費は、内科などの一般医科の診療費とは異なった性質をもっています。すなわち、医科の場合、家計規模が大きい、すなわち裕福である家庭でも、そうでない家庭でも、家計から支出される費用は、あまり差がないことが知られています。一方、歯科は裕福である家庭ほど、家計からの支出が多い傾向が見いだされています。これは、歯科医療が直接、生命に関わることが少ないためであるとされています。他の先進国でも、ほぼ同様の傾向が報告されています。

この数年来、東京都内を中心に、義務教育修了までの幼児・児童・生徒に対しては、健康保険制度の自己負担分を、市町村が支給する制度が広がっています。この影響を受けて、中学生の時期までは、う蝕の治療勧告による治療率は比較的高い傾向になりますが、高校に就学すると、治療率がガクンと落ちます。今まで、これを高校生の歯科医療についての関心や態度の問題として扱う傾向にありました。しかし、最近の調査をみていると、高校生のう蝕治療完了率が50%を割る学校が、かなり出てきました。

そして、治療をしない理由に「経済的理由」がかなり出てきたとの報告がされると同時に、高校生の時点で、「口中がむし歯だらけ(う蝕が多く)で、噛めるところがない口が散見されるようになった」と言われるようになりました。十代中盤でいわゆる「口腔崩壊」状態です。これは、困った問題だと考えていましたが、地方では、医療費助成制度が低いために、小学校の時期から「口腔崩壊」状態の児童がいるとの報告も、地方紙から散見されるようになってきています。

日本の子供のう蝕は確かに減少していますが、治療のされていない「むし歯」を、かなりの本数持っている子供がいるという現実に、どのように対処していくか、いま一度、改めて考えていく必要があると思います。新しい年を迎えるに当たって。

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