(記者の目)児童のつぶやきに本体

小学校理科教育の研究者から聞いた逸話である。3年生の授業を見学した。磁石の単元。「じしゃくにつくものをさがそう」。学習活動が始まった。はさみの刃にはつくけれど、柄にはつかない。ゼムクリップにはつくけれど、紙コップにはつかない……。児童らは、いろいろなものに磁石を近づけては試していった。ここまでは、どの教室でも繰り広げられる授業風景である。

1人の男児が盛んに首をかしげている。児童の間を歩いて活動の様子を見ていた教員が、その子の横を通ったとき、つぶやきが発せられた。「そうか! じしゃくになるんだ」。その後の授業展開では、磁石につくもの、つかないものが児童から発表され、双方の性質に分けて板書された。だが、男児のつぶやきは取り上げられなかった。「なんともったいない」と研究者は話していた。

実は、この児童だけが、「じしゃくにつく」物理現象の本体を捉えていたのである。「じしゃくにつく」は現象であり、「じしゃくになる」がその本体なのだ。後の単元では、磁石に小さな釘をつけて、その釘が磁石の性質を得て「じしゃくになる」のを学ぶ。教材研究が不十分だと、「つく」と「なる」を深く学ばせられない。「つく」ものがあるのではなく、「なる」から「つく」のだ。

電磁気学でいえばこの「なる」は「磁化」を指す。外部から磁場をかけたとき、磁石になる(磁化/magnetization)性質が強い磁性体かどうかの度合いに、磁石へのつきやすさは比例する。また磁化は、磁性の最小単位である「磁区」の方向が外部の磁場によって物質の中で一定の方向に揃うのを意味する。いったんは揃っても磁場がなくなったとき磁区の方向が保てなければ、磁石の性質は弱くなるか、あるいはなくなる。磁気が残る程度を残留磁気という。残留磁気が強い物質を強磁性体という。
 
小学校段階で電磁気学まで教える必要はないが、もしもこの授業を行った教員が、磁化について、教材研究の中で心得ていたならば、「今、すごい発見をしてくれた人がいます。□□さんです。君のおかげで、みんなも、先生も、深く学ぶことができました。ありがとう!」と言えたかもしれない。深い学びを成立させるためには、深い教材研究こそ重要である。(池田)

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