SDGsの達成を目指す ユネスコスクールへの期待を語る

身近な一歩が地球規模の課題解決へ
対談
大山真未(日本ユネスコ国内委員会事務総長、文部科学省国際統括官)
末吉里花(日本ユネスコ国内委員会広報大使、(一社)エシカル協会代表理事)

貧困や飢餓から経済成長、気候変動に至るまで、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)は世界規模の課題に包括的に取り組む。SDGsへの取り組みが加速度的に進む中、ESDは一層重要な役割を担うこととなった。学校教育におけるESDの推進に期待を込め、日本ユネスコ国内委員会で事務総長を務める大山真未・文部科学省国際統括官と、同委員会でESD広報大使を務める末吉里花(一社)エシカル協会代表理事がESDの今後の展望を話し合った。(進行 教育新聞編集局)


■自分が行動することで社会を変える
――ESDの推進状況についてどのように捉えていますか。

大山真未・文部科学省国際統括官(右)と末吉里花日本ユネスコ国内委員会広報大使

大山 国際統括官に就任して一カ月がたったところですが、改めてESDについて考え、非常に幅広い概念だと気付きました。一人一人が当事者意識を持って、身近な問題として主体的に取り組むことがより良い社会につながる、自分が行動することで社会を変えることができるという感覚は、社会を生きていくために重要な価値観になります。

先般、福岡県大牟田市の安田昌則教育長から、地元の取り組みとして「こども民生委員」について聞きました。高齢者や地域の方々への声掛けやお手伝いをして町をより良くするという取り組みです。「おおむた・みらい・ESD推進事業」も行われており、大人も刺激を受けながら地域活性化に貢献しているということで感銘を受けました。

また、新学習指導要領の全体の内容に係る前文および総則において、「持続可能な社会の創り手」の育成が掲げられ、各教科においても、関連する内容が盛り込まれました。持続可能な社会の創り手を育てるために、どのような教育が必要なのか、どのような価値観や能力・態度の習得が学習者に求められているのかに焦点が当てられていると思います。

■一般市民に広がることが成功の鍵

末吉 今年4月から日本ユネスコ国内委員会の広報大使を仰せつかりました。普段は(一社)エシカル協会の代表理事として、「エシカル」の概念やエシカル消費の啓発に努めています。

「エシカル(ethical)」とは、「倫理的な」を意味する言葉です。「人、地球環境、社会、地域に思いやりのあるお金の使い方や生き方のこと」と説明しています。とてもなじみのある考え方でしょう。他人を思いやる、もったいない、お互いといった昔から日本人が大切にしてきた生き方や価値観です。フェアトレードとも関連しています。

自分がお金を出して手に入れた食物や洋服がどうやって作られているのかを考えることは重要で、価格が安すぎる場合はその裏に環境破壊、児童労働などの問題が起こっていることが考えられます。

協会では身近なところから持続可能な社会作りを進めるという意識を持ってもらえるよう活動しています。発足は2015年11月で、当時は「エシカル」と名が付く団体はなく、知らない人の方が多かった。それが、3年で大きく変わりました。SDGsが普及したことが大きいと思います。

SDGsの12番目の目標は「作る責任、使う責任」で、日々の暮らしでどういうところにお金を使うかを考えることが、世界が抱えるさまざまな問題の解決につながります。SDGs達成の一端を、どんな人でも担うことができるということです。

――学校教育との関連では。

末吉 3年間活動してきて、「学校教育で伝えることが一番確実」と感じました。将来を担う子供たちに伝えることは、社会人になったとき、大きな違いをもたらします。現在、エシカルは一部の教科書で記事として読めるだけです。そこで入門書として、『はじめてのエシカル』(山川出版社)と題する本を発行しました。小中高校の図書館などで読まれています。

大山 とても分かりやすく、楽しい本ですね。広報大使としても、活発な活動をお願いしたいと思っています。

末吉 小学生の子供たちが「エシカルという大事な言葉を、今まで誰も教えてくれなかった」と話してくれました。学校との連携では、子供たちの変容を目の当たりにでき、活動のモチベーションになります。当たり前のようにエシカル消費をする時代は、すぐそこまで来ていると思います。エシカルは、公教育で伝えるESDそのものです。

大山 大量消費が当たり前のようになっている現代で、エシカルは「もったいない精神」に気付かせてくれますね。

末吉 開発を進めるのも、SDGsを達成するのも人間です。重要なのは、担い手をどのようにして育てるか。「開発」は仏教用語で「かいほつ」と読み、「内なる自分の心を耕すこと」という意味だそうです。本来の開発と「かいほつ」。この両方がなければ、ESDもSDGsも達成できない、いわば車の両輪です。

大山 経済成長と言うと「外へ広がっていこう」という認識があり、縁遠い印象になりますが、さまざまな問題を「自らの課題として主体的に捉え、身近なところからどう取り組み、どう解決するか」という視点で考えることが、国、世界に広がっていく。そのきっかけがESDです。

■子供と一緒に考える教員たち

末吉 先般、ユネスコスクールである東京都大田区立大森第六中学校の授業実践を参観しました。同校は、長年にわたりESDに取り組んでいます。一番印象的だったのは、生徒が主体的、積極的に参加して課題解決に取り組む姿でした。

生徒の活動が学校の中だけで完結せず、地域社会や地球につながっている。そのために必要な学びが全科目で共通して行われていて、「ここまでできるんだ」という感動を覚えました。

教育現場への注目について語る大山統括官

大山 ESDに積極的に取り組んでいる学校では、自分の頭で考えて動くことで、何か変わるという実感が持てるような教育をしており、その感覚を持つことは大切なことです。

――教員に対する印象は。

末吉 私が訪問した学校では、先生方が答えのない問い掛けをしていました。常に問いを持ち続けることができるような授業の進め方で、目線が高いところからではなく、「子供たちと一緒に考えていきたい」というメッセージを感じました。

大山 生きていると答えのあることばかりではないことに気付かされます。考え続ける姿勢を教えることは非常に重要です。大人も含めて、身近なところから考えようとする意識を発信していただけたらと思っています。

■2030年の社会に向けたESDの進め方
――これからのESDの役割とは。

大山 SDGsの17の目標のうち教育は目標4で、「全ての人に包摂的かつ公正で質の高い教育を提供し、生涯教育の機会を促進する」とされており、ここにESDも含まれています。教育については「教育が全てのSDGsの基礎」であり「全てのSDGsが教育に期待」している、とも言われています。ESDをより一層推進することがSDGsの達成に直接、間接につながっていきます。

具体的なアプローチは、学校、地域の課題や取り組み方によってさまざまですが、SDGsを見据えつつ学校や地域で足元の課題解決を大切にESDを推進していただくことが重要です。

――学校現場のESDのさらなる普及には、何が必要でしょうか。

大山 一握りの熱心な教員の取り組みで終わることなく、管理職のリーダーシップで、学校全体で取り組むこと、すなわちホール・スクール・アプローチが大切です。さらに、1校だけで終わることなく、市町村や教育委員会のリーダーシップの下、地域全体でESDに取り組むこと、すなわちホール・シティー・アプローチも大切です。大牟田市のような好事例を踏まえて、ESDをより「広げる」ための支援と、教員の指導力向上などESDを「深める」ための支援を、施策の縦糸と横糸と位置付けて推進に取り組んでいきたいと考えています。

――「グローバル・アクション・プログラム(GAP)」については。

大山 来年、GAPの後継の枠組みを決定する予定で、現在、それに向けて議論しています。日本はリーダー役として、各国が関心を持って取り組むよう世界中に「一緒に手を取り合う」という認識を発信していきたいです。

■ユネスコスクールのネットワークを活用して
――ユネスコスクールへの期待とエールを。

「素晴らしい授業だった」と話す末吉広報大使

末吉 「第10回ユネスコスクール全国大会(ESD研究大会)」では、パネルディスカッションにおいて実際にユネスコスクールで学習した子供がどのように変容したか、そのストーリーを聞くのを楽しみにしています。たくさんの証言を引き出したいです。それが大きな勇気につながり、たくさんの人のモチベーションになると考えます。

変革は痛みを伴います。大きく姿を変えないとSDGsを達成できない。より多くの人たちと共に痛みをシェアしながら、一人一人の一歩を集めて大きな力にしていきたいと思います。そのためにも、まだ取り組みを実施していない先生方に、ESDの成果を伝えていきたいです。

大山 「やっても変わらない」という無力感を払拭(ふっしょく)できれば、それが行動するきっかけになっていきます。私も、このユネスコスクール全国大会をESDの好事例を学ぶ場、ESD関係者の交流の場として、知見の共有に活用していただきたいと考えます。

2005年にはわずか16校だったユネスコスクールは現在1100校を超え、全国大会は記念すべき第10回を迎えました。この節目の大会で参加者の皆さまが多くのものを得て、持続可能な社会づくりの担い手育成に生かされることを期待しています。

ユネスコスクールの皆さまには、地域と世界の両方に目を向けて活動していただくことを望みます。ユネスコスクールは国内1100校、世界1万1千校の世界的な学校間ネットワークです。このネットワークを活用し、国内外のユネスコスクールとの交流・協働を積極的に進めていただくことを期待しています。

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