『「みんなの学校」をつくるために 特別支援教育を問い直す』 著者の小国喜弘氏に聞く

インクルーシブ教育の今後を考える

映画『みんなの学校』の舞台である大阪市立大空小学校初代校長の木村泰子氏と、フル・インクルージョン教育を通常の学校で実現するための実践研究に力を注いでいる東京大学バリアフリー教育開発研究センター長の小国喜弘教授が、『「みんなの学校」をつくるために 特別支援教育を問い直す』を出版した。

本年度から教職課程において「特別支援教育総論」を新たに必修とすることになっているが、本書は東京大学教育学部の同授業のテキストとしても採用されることが決定している。内容や狙いについて著者の小国教授に聞いた。


――本書の役割は。

小国 この本は、「みんなの学校」(School for All)をつくるための理論書として編集しました。

障害者権利条約によって求められているのは、「障害」だけではなく、性差・経済格差・民族差など、多様な差異を包摂し得るような通常学校・通常教室自体の改革です。

しかし現実には、学校の教室は少しの差異が排除の対象にされかねないような、抑圧的で窮屈な場にますますなろうとしています。その中で子供だけでなく、教師も苦しんでいる実態があります。木村泰子先生とともに、すべての子供、そしてすべての大人が包摂されるような、そんな学校をつくるための理論的な武器を構築するための本をつくろうという結論に至りました。

同時に、本年度から大学の教員養成課程では、特別支援教育の必修授業「特別支援教育総論」が誕生しました。文科省は、医学モデルによる障害知識の習得と、それに基づく個別的支援の必要性について、教職課程の履修者に学ばせることを想定しているようです。

しかし、本当に必要なのは、すべての子供・大人が安心して過ごせるような教室の環境づくりです。今回の特別支援教育の必修化は、今後、医学モデルによる偏った障害知識のみを持って現場に出て行く先生が、増える状況を生みかねません。

そのような危惧から、特別支援教育の必修授業の教科書や副読本としても読めるものにしました。

――具体的な内容は。

小国 東京大学の学部生・大学院生、そして現職の教職員を対象にして、2018年の5月から7月にかけ4回のワークショップを開催しました。本書は、その講義と討議の記録から構成されています。

ワークショップ全体のファシリテーターを木村泰子先生が務め、大空小学校の元教諭や特別支援教育の専門家などに加えて、元文科省次官の前川喜平さん、北海道の浦河町で統合失調症の患者の方たちが街で暮らすための支援に取り組まれてきた医師の川村敏明先生など、多彩な方を講師にお招きしました。

講師のレクチャー後は、毎回学生と現職教員の真剣な討論があり、その様子も本書には収められています。

「みんなの学校」をつくるためには、単に学校の中をどう変えるかではなく、政治の問題が影響を与えていること、さらには医療における患者の抑圧と、学校における「障害児」の抑圧とは同型的であることなど、私たちはより複雑な視点から「みんなの学校」の成立可能性について、具体的に検討することになりました。

――どういう人に読んでほしいか。

小国 学校づくり、学級づくりに悩んでいる先生方、そしてこれから教員になろうとしている大学生の皆さんに、ぜひ読んでもらいたいと思っています。

また、学校にわが子がなじめず、「発達障害」ではないかと疑われて悩んでいる保護者の方々、さらにはわが町の学校をもっと開かれた場にしたいと考えている市民の皆さんにも、ぜひ読んでいただきたいです。