(円卓)分岐点

シヅクリプロジェクト代表 山下 由修

年が明けたばかりの寒い日、「二十歳になりました」とのメールが届いた。送信者を見て、何かの間違いだと思った。半信半疑のまま「忘れられない君に 二十歳おめでとう」と返信した。

中学生時代の彼女はどこでもあぐらをかいて座っていた。「教室に行けよ」と声を掛けると決まって「うぜえんだよ」と返ってきた。

どこか真っすぐなところがあり、卒業式の日、正門を出たらすぐ戻ってきて、「実はガラスを…」「出世払いだな…」というやり取りがあった。あれから5年、突然のメールだった。

2時間後、校長室をノックする音が聞こえた。ドアを開くと薄汚れた作業服を着た彼女が立っていた。「いましかないと電車に飛び乗っちゃった」といい、校長室のソファにちょこんと座る。

「いま、どうしているんだ」「解体の仕事をしているの。いつか必ず自分の会社つくるから」「なるほど、天職だな」「先生、忙しいのに、ごめん、帰るね」。

玄関まで送っていくと、「泣きたくなったら、また来ていいですか」と一言。彼女の後ろ姿がにじんで見えなくなった。

一人前になるということは、自分自身の価値を自分で認めることだ。それを自覚という。大人になるということは、ありのままの自分を好きになることだ。これを自尊心という。大人への階段を彼女は歯を食いしばって登り始めていた。

誰の人生にも偶然や出会いが重なり合う「分岐点」があり、自分が変わる「その時」が訪れる。彼女にとっては、解体という仕事と素敵な棟梁だったのだろう。

内に秘めるモチベーションを喚起させ、現実に向き合い、本当の自分の存在価値を見つけ出してほしい。それは子供たちに関わる全ての人の願いである。どこかに未来の扉を開ける分岐点があり、自分が変わるその時がくるはずである。

2019年、その「分岐点」に少しでも貢献できたらと考え、シヅクリプロジェクト【シ≒子・師・志・静(岡)】を立ち上げた。無限の可能性が広がる子供たちに、生き抜く力を育む「探究プログラム」を地元企業と協働して提供していこうと思う。

自ら考え、仲間と力を合わせて、正解のない問いに真剣に向き合うプロジェクトは、自覚と自尊心を喚起させ、分岐点となって未来を支えていってくれるはずである。

(元静岡市公立中学校長)