ESDとカリキュラム・マネジメント(3)カリキュラム・マネジメントへの道

NPO法人日本持続発展教育推進フォーラム理事 手島 利夫

シンガポールや香港などアジア諸国では、前世紀末には21世紀型コンピテンシーベースの教育に向けて改革が進められ(本紙2019年9月5日付「SDGs4.7とこれからの学び」木村大輔氏)、20年後の今、それらがアジア諸国の学力・国力を押し上げ、輝かしい成果を挙げていることは周知の通りである。

実はわが国でも同時期に同様の施策が示され、国を挙げての取り組みが始まっていた。それが1998年告示の「ゆとりの中で生きる力を育む」学習指導要領の改訂であり、「総合的な学習の時間」の開始である。これは現在のカリキュラム・マネジメントや主体的・対話的で深い学びにつながる、当時としては極めて先進的な教育改革案であり、当初、教育界から高い関心をもって迎えられていた。

しかし、昭和の大量生産・大量消費時代を成功に導いた「学力」や「受験教育」への崇拝者が圧倒的多数を占めていた現状と、「総合的な学習の時間」の進め方についての具体的な手だても各校の創意に委ねられ、理論・実践を兼ね備えた指導者も見当たらない中、場当たり的な体験的な活動ばかりを見せられた多くの学校関係者は、新たな教育観への転換を信用しきれなかったのではなかろうか。

また、授業時数の削減とともに示されたために、「ゆとり」という文言への社会の大反発や、OECDの学力調査など、見かけ上の学力低下をあげつらった批判の大合唱の前に、21世紀の日本の国づくりに向けた教育改革は頓挫してしまったのである。

そのような中で、「国連ESDの10年」を踏まえ、ユネスコスクールを中心としたESD(持続可能な開発のための教育)の取り組みが2005年から始まり、その模索の中から、教科・領域の学びを環境・人権・国際理解・文化理解といった視点から横断的につなぐイメージマップ「ESDカレンダー」が開発された。これは現在のカリキュラム・マネジメントの元であり、「学びに火をつける・問題解決的な学習過程」と併せて、ESDの強力な推進力として注目を集めた。またユネスコスクールで育つ子供たちの姿そのものも、わが国の教育の目指すべき実像として大きな説得力を示してきた。これらにより、05年当時は20校に満たなかったユネスコスクール(ESDの推進拠点校)が16年には全国で1000校を超え、拡大を続けている。

これらを踏まえ、14年10月8日の参議院予算委員会で、「持続可能な開発のための教育を視野に、ESDカレンダーの活用をしてはいかがか」という質問を受けた下村博文文部科学相は、「ESDカレンダーは、ユネスコスクールだけでなく、全国の学校教育に広めていきたい」と答えている。

このような曲折を経て、「激変を続けるグローバル化社会に、たくましく生きる力を備えた持続可能な社会の創り手を育みたい」という教育の専門家や文部科学省の考えが反映され、ようやく17年に公示された学習指導要領の前文に「持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる」と明示されたのである。

そして総則において、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を通して、課題解決するために必要な思考力・判断力・表現力や主体的に学習に取り組む態度を養い、多様な人々との協働を促す教育の充実に努めるよう、探究的・問題解決的な学習過程の創意工夫が示唆された。

また、ESDカレンダーの全国展開を踏まえ、教科等の学びをESDの観点から横断的につなぎ、学んだことを関連付け、活用能力の育成を図るカリキュラム・マネジメントの重要性を明確に示したのである。

世界から20年以上も遅れているこの国の未来づくりへの歩みの重要性を自覚し、力を合わせて取り戻す機会をようやく得たのである。

(おわり)

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