(鉄筆)何気なくつけていたテレビで……

何気なくつけていたテレビで、山田洋次監督の『男はつらいよ』を放映していた。観るともなく観ているうちに興が乗り最後まで観てしまった。

「寅さん」を観るたびにいつも感じることがある。どの作品も寅さんの前にマドンナが現れ、さまざまな事件を通して互いに心を通わせるも、二人の仲はいつも成就しないという筋なのだが、見終わった後、心の中がほっとする温かさと懐かしさで充満するのはどうしてだろうか。

以前、葛飾柴又にある「寅さん記念館」の「山田洋次ミュージアム」に行った折りに見た、山田監督の言葉が印象に残っている。「日本人独特のつつましい、身の丈に合った暮らし方、生活文化は、幕末から敗戦を経て、昭和30年頃まで細々とつながっていたと思う。今日、それがほとんど崩壊してしまった。何故なのであろうか。どこで間違ってしまったのか」。

山田監督は、「寅さん」を通して、なくしてしまった「つつましい身の丈に合った暮らし方、生活文化」を取り戻そうとしたのではなかったか。その生活の根底にある、人と人との互いに思いやる優しさ、貧しいながらも相手を信じ、支え合う心の豊かさを伝えようとしたのではないか。

「寅さん」には、相手を思いやり、気遣う心優しき登場人物の何と多いことか。その会話や立ち居振る舞いが時代の流れに翻弄され、ともすれば忘れがちになる私たちに、人を思いやる優しさをよみがえらせてくれる。

その「寅さん」が12月、『男はつらいよ お帰り寅さん』として22年ぶりに銀幕に戻って来る。楽しみである。