ESDの課題と展望 SDGsで新たなステージに

指導要領との関連など

2015年の国連サミットでSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)が採択され、その基盤であるESDも新しい段階に入ったといわれる。また、わが国では新学習指導要領が告示され、ESDが新たな展開を見せている。そこで、「ESDの課題と展望」と題して、ESDの各分野のエキスパートに執筆してもらった。

課題を自分ごととし行動する機会を

文部科学省 国際統括官付 国際戦略企画官
(併)日本ユネスコ国内委員会事務局次長 大杉 住子
持続可能な社会を創る見方・考え方

環境、社会、経済が総合的・持続的に発展していく未来を創るために、教育にできることは何だろうか。新しい学習指導要領は、その前文と総則において、「持続可能な社会の創り手」を育むことをこれからの学校教育や教育課程の役割として規定した。この「持続可能な社会の創り手」の育成に重点を置いて教育活動の充実を図ろうとするのが、持続可能な開発のための教育(ESD)である。

ESDを定義するなら「持続可能な社会の創り手を育むため、現代社会における地球規模の諸課題を自らに関わる問題として主体的に捉え、その解決に向け自分で考え、行動する力を身に付けるとともに、新たな価値観や行動等の変容をもたらすための教育」となる。

同じ事象に遭遇しても、持続可能な社会づくりを目指した視点から捉えて考えるかどうかで、その後の行動は変わり得る。未来を担う一人一人が、多様性(いろいろある)、相互性(関わり合っている)、有限性(限りがある)、公平性(一人一人大切にする)、連携性(力を合わせる)、責任性(責任を持つ)といった、持続可能な社会を創るために欠かせない見方・考え方を働かせて物事を捉え、考え、行動していけるようにすることが重要になる。

ESD for 2030とユネスコスクールへの期待

わが国の提唱によって開始されたESDは国際的な取り組みとなっており、これまで世界で2390のESDに関するプログラムが実施され、15万カ所を超える教育機関において、2600万人を超える人々に対しESDの機会が提供されてきた。こうした成果を礎に、SDGsとの関係も改めて整理しつつ、新しい枠組み「持続可能な開発のための教育:SDGs達成に向けて(ESD for 2030)」が国連およびユネスコで採択され、来年から開始される予定である。

日本の小学校では来年度から新学習指導要領が全面実施となり、「持続可能な社会の創り手」の育成を目指すESDの実施が全国の学校において標準的になっていくと期待される。そうした中で、ESDの推進拠点であるユネスコスクールには、より一歩進んだ役割を果たしていくことが望まれるだろう。

と言っても、急に現在の教育活動からかけ離れた、何か特別なことを始めなければならないという訳ではない。むしろ身近な地域に目を向け、持続可能な社会創りという視点から、課題を自分ごととして捉えて考え、試行錯誤しながら行動する機会を充実させていくことが重要であろう。

そのように身近な自分の課題を探究することと併せて、異なる国や地域にいる自分たちと同じぐらいの年の子供たちが、どのような課題に直面しているのかを知ることで、自分のことと世界のことをつないで考える力が身に付いていく。

本年9月には、国連総会の機会にESDに関するイベントを国連本部で開催し、日本のユネスコスクールに認定されている広島県立高校の生徒に学習成果を発表してもらったところである。今後もユネスコスクールにおける子供たちの探究の成果を世界に向けて発信し、国際的な連携を強めていくことを全力で支援していきたい。

山積する諸課題の解決に向けた探究学習

宮城教育大学教員キャリア研究機構長・教授 市瀬 智紀

「持続可能な開発のための教育の10年(DESD)」の終了とともに2015年からSDGsの時代にはいった。目下、大手企業などが次々と参画してSDGsの認知度が社会的に高まり、「SDGsのうねり」が到来している。

SDGsに向かう児童生徒個人を育てる

昨今の高等学校における課題研究は、SDGs推進の追い風になっている。SDGsを課題研究に取り組むと、「果物の皮を燃料に変える研究」「海水から作った電池の発電量の研究」「水を使わないバイオトイレの途上国での適用」「LGBTの社会的認知を高めるための方法」「老人と小学生が同居する地域の学校づくり」など、児童生徒は、柔軟な発想で驚くような提案をしてくる。生徒が就職するにしても進学するにしても、SDGsで取り組んだことが就職面接や入試場面で評価されるようになってきている。

従来のESDの活動の中では、児童生徒全体が毎年同じ体験活動をして、そこで終わってしまうケースも見られた、SDGsの実践では、進路やキャリア形成と結び付けることを意図して、教員は児童生徒一人一人に課題解決・探求学習の目的や手段、方法を提供すべきであろう。

SDGsは社会貢献の手段に成り得る

地域の人と関わり合う中で、地域の産品の魅力を最大限に引き出すことに目覚めた生徒、こども食堂に手伝いに行って自分の役割を見いだした生徒、地域防災を学んで実際に被災地に災害ボランティアに出掛けた生徒など、SDGsの学習を通して、これまで社会性を獲得する機会のなかった児童生徒が、社会と関わるようになっている。

SDGsの解決には科学技術の革新も重要であるが、SDGsの解決手法が社会参画、社会貢献であるということを考えれば、これまで学校で居場所がないと感じていた生徒も活動に巻き込むことができるのではないか。

また、SDGsは、経済、社会、環境・科学など文系、理系を問わず幅広い分野にわたる課題の解決である。例えば、数学の数理的な処理方法を分析に活用したり、国語の論理的思考、外国語の能力をプレゼンで発揮したりするなど基礎学力の学習成果が生かせる。そこで、教員にはSDGsの課題解決を意識しながら日々の教科を教える姿勢が求められている。

SDGsは「ラベリング」ではない

SDGsは2030年までの期限付きの課題解決である。その中には2020年までに解決を要する目標すらある。SDGsは現在行っている活動に17のラベルを貼って安心するという訳ではない。どのくらいのインパクトを与え改善につながるのかについての考察、PDCAによる研究成果の検証、学年を超えて先輩と後輩で研究テーマを受け継ぎ、課題の解決を前進させるといった視点が必要なのではないだろうか。

小学校の総合学習で大学教員の講話を聞いた児童が、高校の課題研究で同じ大学の教員の指導を受けてSDGsに取り組んでいる話を聞いた。若い人が、小中高、そして大学で連続して課題研究・探究学習に取り組み、そして、それが就職や入試の場面などで確実に評価されれば、山積する諸課題の解決に向かって社会は確実に動き出すに違いない。

「ワンチーム」でESDを前進させよう

日本持続発展教育推進フォーラム理事 手島 利夫

学習指導要領がESDを基本理念として改訂され、日本の教育が飛躍的に発展する好機を迎えている。

わが国の教育は、21世紀に入ってからも知識注入型・受験型学力を追い続けてきたために、世界のハーフラインから20年も遅れているのが現状である。遅れを取り返し、持続可能な社会の担い手を育てる教育を進めるために、全国に広がる「ESDの推進拠点」ユネスコスクール1116校のスクラムに大きな期待が寄せられている。

この機会を生かせなければ、日本は沈む一方であろう。今回の学習指導要領の改訂は、大学入試改革と共にわが国の再生にとって最高の追い風である。

学習指導要領で示された「戦略」・カリキュラム・マネジメントの本質は、「児童・生徒の発達段階を考慮し、言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力等、学習の基盤となる資質・能力を育成していくことができるよう、教科等横断的な視点に立って教育課程の編成を図る」ことや、「各学校においては、児童・生徒や学校、地域の実態、および児童・生徒の発達段階を考慮し、豊かな人生の実現や災害等を乗り越えて次代の社会を形成することに向けた現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力を、教科等横断的な視点で育成していくことができるよう、各学校の特色を生かした教育課程の編成を図るものとする」と示されている。

ESDカレンダーを生かし、持続可能な社会づくりに向けた視点で教科や単元をつなぎ、豊かな学びを創ってきたユネスコスクールの実践的な経験が生かされる時である。

また、主体的・対話的で深い学びについても「学びに火をつける」を合言葉に問題解決的・探究的な学習過程の工夫に取り組んできた経験や地域の課題に向き合ってきた実績が生かされ、教育の質的向上に貢献できると考える。

私は今年度もユネスコスクールESD大賞選考委員の1人として、全ての申請書を読ませていただいたが、2つの特徴があった。1つは中学校や高等学校において、優れた実践がとても増えていることである。学習指導要領の改訂を真剣に受け止め、ESD、SDGsの視点に立った授業づくりに向けて全校が協力し合う体制も整いつつあるように思う。

これを大学入試改革が後押ししてくれている点もありがたい。中学校・高等学校が本気になると、世界を変える実践が次々と現れるように思う。

2つ目の特徴は、ユネスコスクールに申請中の学校が非常に頑張っており、目を見張るような成果を挙げつつあることだ。申請中の学校も検討中の学校も、ユネスコスクールの重要な仲間だ。ユネスコ本部のシステム不具合が続いていて正式な認定が遅れているのは残念であるが、頼りになる仲間として歓迎し、共に日本や世界の教育改革を推進していこう。

ユネスコスクールになることや、そのことで学校に箔(はく)を付けるのは目標ではない。どんな人間が育つのか、そしてどんな世界が実現できるのか、そのために日本の教育をどのように変えるのか、大きなゴールに向かって、「ワンチーム」として前進していこう。

地球のウェルビーイングを実現する

横浜市立日枝小学校校長 住田 昌治

ESDは、地球社会を持続不可能にしつつある価値観や行動、ライフスタイルに影響を与えてきた教育の在り方自体を変えていくことだったはずである。しかし、学校現場においては、これまでの教育の在り方はそのままに、授業の中での取り組みや熱心な教員だけの取り組みにとどまる実践が多かった。

もしかするとSDGsでも同じようなことが起きているような気がする。大切なのは強い動機と目的をもって主体的に取り組むことだ。

次期学習指導要領には前文が設けられ、これから目指す社会は「持続可能な社会」と明確に示された。今、漠然とした不安や違和感、世界にまん延する暴力の連鎖、排他的な自国中心主義、コミュニティーの対話力・多様性受容力・共感力の欠如、非寛容な社会が広がってきている。

このような持続不可能な社会のシステムを子供たちに担わせるのか。これから先、子供たちが今までと同じように豊かな生活を過ごせる保証はない。今、私たちが目の前の問題に真剣に向き合わなければ、これからの時代を生きる子供たちに全てのツケを払わせることにもなる。

持続可能な社会の創り手を育むために、覚えたことをはき出すような再現のための教育から、自分で問いを立て、自分で考え、自分で問題解決する変容のための教育への転換が求められる。批判的な思考力を高め、すぐに答えを求めるのではなく、急がず、ゆっくり考えて、多様な考えを尊重し合う学校文化に変えていかなければならない。

そんな学校の体質改善を行う時、授業に主体性・多様性が求められているのに、学校そのものが受け身・画一的で変わろうとしないのであれば、ますます体質は悪化する。それどころか、主体性のない、疲れ果てた教員を毎日見続けなければならない子供たちは、こんな大人になりたくないと思うだろう。

まず大人のワクワク感が大切にされ、結果よりもプロセスを大切にする感覚が日常で共有される学校に変えていきたい。学校全体での取り組みは、ユネスコなどが推奨する「ホールスクールアプローチ」で、学校全体を対象に児童生徒に寄り添いながら推し進めていく「変革」であり、旧態依然たる「学校文化」に変容を迫る過程を大切にすることだ。

ホールスクールアプローチでは、まず校長を含めた教職員らが変容し、次に子供たちが変わり、そして保護者、地域が持続可能な未来を考えるように広げていこう。

そして、ESDは、教育を超えて働きや暮らしへとまなざしを向けていくことで、個人そして組織のウェルビーイング、さらに地球のウェルビーイングを実現するSDGs達成に貢献できるのである。

エビデンスを明確にし活動の深化を

東京都多摩市立連光寺小学校校長 棚橋 乾

ユネスコは2030年までのESDの方針として「ESD for 2030」を策定し、今年の国連総会で採択される予定である。さまざまな研修会などでドラフトを目にされた方も多いのではないだろうか。今はネットにもアップされているので、誰でも閲覧できる。

この中に、エビデンスベースという言葉がある。つまり成果を求めている訳である。ESDのEはエデュケーションなので、ESDは教育である。ここでは学校教育に限定するが、学校教育の成果は、児童生徒の成長にある。果たして、これまで実践してきた学校のESDは、児童生徒のどのような成長を図ってきたのか。それは資質・能力ベースの成果だったであろうか。

この成果についてわが事を振り返ると、曖昧さは否定できない。これはESDの評価への取り組みが十分でなかったことの現れかもしれない。

そこで、古くて新しいESDで育む資質・能力と評価の研究が必要となってきた。はじめにESDで育成する資質・能力を再定義することにした。

新学習指導要領では、育成する三つの資質・能力として「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう人間性」を示している。OECDの「Education 2030 プロジェクト」では、「新たな価値を創造する力」「対立やジレンマを克服する力」「責任ある行動をとる力」として問題解決力や責任感、創造力などを示している。

加えて2011年に国立教育政策研究所が示したESDで育む能力・態度(例)やユネスコ国内委員会が示したESDで育みたい力、さらに21世紀型学力なども参考にして、知識・技能、意思・態度、探究する力、思考力にまとめた。

次に、まとめたESDで育む資質・能力をもとに、具体的な活動場面に合った言葉でルーブリック形式の意識調査を作成し、多摩市内全小学校6年生と中学校3年生に取り組んでもらった。さらに、他地区の小中学校にも調査に協力してもらい、この11月上旬で合計4000人のデータが集まっている。

詳しい分析は間に合わないが、各スコアを数値化して平均値をグラフにしたことで、ユネスコスクールの特徴と、一般的な傾向が見えてきている。例えば、どの学校でも持続可能な社会づくりについて肯定的だが、地域社会との関わりや実際の活動は否定的である。探究する力にも傾向があった。

この結果をもとに、全国大会第一分科会では、ESDで育成する資質・能力について参加者の意見や考えを聞かせてもらい、協議の上、ユネスコスクールまたはESD実践校で育成する資質・能力の傾向を明らかにしたいと考える。

さらに、この意識調査はあくまでも児童生徒の思いや印象であって、学びの成果とはいえない。では、どのような評価活動をすれば、ESDで育成する資質・能力を測ることができるのか、評価方法についての協議も合わせて行う予定である。

これまで、活動内容に目を向けがちであったが、どのような資質・能力が育成できるのか、エビデンスを明確にすることも、学校で実践するESDがより広まり、活動が深まる一助となると考えている。