(円卓)歴史文化遺産からSDGsを学ぶ

奈良教育大学准教授  中澤 静男

私は奈良に住んでいる。毎年、多くの修学旅行生や観光客が奈良を訪れ、東大寺の大仏を見てその大きさに驚きの声を上げ、奈良公園ではシカに鹿せんべいを与えながら、ゆったりとした時間を楽しんでいる。

奈良への旅行というと、「歴史に触れる」という固定観念があるが、実はSDGsを学ぶことができる。1300年前から受け継がれている歴史文化遺産は、持続可能な社会づくりのヒントを探究する学びの教材である。世界遺産である古都奈良の文化財を構成する8つの資産全てに、当時の国際協力に基づく最新の技術や思想を見いだすことができる。

この国際協力とそれに基づく技術やシステムの革新は、素晴らしい文化や社会の源泉であるとともに、受け継いでいこうという意識を創り出す、持続可能な社会の実現に必須の要素である。

そして継続(持続)の核になるのが能動的な市民である。東大寺の大仏は、全ての動物、全ての植物が栄える世の中にしたいという願いと天然痘の感染を防ごうという願いの下、今で言う市民ボランティアの力を結集して建立された。これはSDGsの目標15「陸の豊かさを守ろう」と目標3「健康と福祉」に対する奈良時代の人たちの取り組みと捉えることができる。

市民の能動的な参加が、大仏造りという不可能を可能にしている。大仏を仰ぎ見ながら、地球的課題である生物多様性の保全や新型コロナウイルスの感染拡大防止に対して、私たち市民一人一人は何をするべきなのかを考え行動化するきっかけとしたい。

奈良のシカは、全国に生息するニホンジカと同じだが、人を見ても逃げ出さない。よく誤解されているが、誰かが飼育しているのではなく、野生動物である。

江戸時代までは神鹿として守られてきた歴史があるが、明治時代以降は特に大切にされてきたということもなく、奈良の人が餌付けをしているわけでもない。街中にもシカは出没するが、奈良の人はシカを見ても驚かないし、決して餌を与えない。互いの存在を認めつつ、ちょうどいい距離感を保っている。

このあたりに、自然との共生のヒントがあるような気がしてならない。奈良に来て、SDGsについて考えてみませんか。

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