(円卓)子供たちに「厚みのある時間」を

元全国連合小学校長会会長 西村 佐二

 先日、久しぶりに都内へ出掛けた。コロナがやや落ち着きを見せ始めている土曜日とあって家族連れの多い中、下校途中なのかランドセル姿の小学生が三々五々歩いている姿が目に付いた。

 一瞬、学校は休みのはずなのにとの思いが頭をよぎったが、土曜の授業参観日なのかと気にも留めずにいた。調べてみて、2018年度、全公立小学校の26・3%が何らかの形で土曜授業を実施していると知り、あまりの多さに驚いた。

 完全学校週5日制実施から20年あまり、当初の姿をとどめるのは難しい。しかし、子供たちの「生きる力」育成につなげようと学校週5日制の趣旨の実現に向け、保護者、地域の人々と連携協力しつつ日々努力した当時の私を含めた多くの校長にとっては、土曜授業の復活は一抹の不安を感じさせるものである。

 今更だが、学校週5日制は、子供たちの家庭や地域社会での生活時間の比重を高めて主体的に使える時間を増やし、時間的、精神的なゆとりの中で生活体験、社会体験、文化・スポーツ活動などさまざまな活動や経験をする機会を増やすべく導入されたものである。この趣旨は、現在に至っても決して色あせてはいない。

 では、20年の間にこの趣旨の実現が確実に図られてきたのだろうか。恐らくそうではあるまい。コロナや少子化の影響もあるが、群れて元気に遊ぶ姿が少なくなり、いじめの認知件数、不登校児童数が12年度以降増え続け、暴力行為とともに19年度過去最多を記録したということを見ただけでも、時間に追われ、ゆとりのある安定した生活から程遠い、精神的に追い詰められた子供たちが増えていることを暗に示しているように思える。

 河合隼雄氏は、『新しい教育と文化の探求』(創元社)という著書の中で、主体的に関与した充実した時間を「厚みのある時間」と表現し、人は「いのち」と同じく、それぞれ自分の「時間」を持っており、その自分の充実した「とき」の体験こそが大切であると述べている。

 こうした中、今、私たち大人に求められていることは、土曜授業に舵(かじ)を切ることではなく、改めて学校週5日制の趣旨を再確認し、子供たちの生活に、時間的・精神的なゆとりを取り戻し、「厚みのある主体的な時間」の持てる環境を構築することにあるのではないか。

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