(円卓)一人一人が賢くなっていくための対話の重要性

聖心女子大学現代教養学部教育学科教授 益川弘如

 私たち人類は「知」を生み出すことで、社会を発展させ、科学技術を発展させてきた。しかし、それと同時に簡単に解決できない問題が生まれ、その解決のためさらに「知」を生み出すことが求められ、そのスピードが早くなっていると言われている。

 気候変動、新型コロナウイルスへの対応、急激な世界情勢の変化の裏で、最先端の情報通信技術(ICT)が良い形にも悪い形にも使われ、社会を大きく変化させている。

 尊敬する認知科学者の一人、戸田正直氏は、人の感情システムと文明環境との関係を研究していた。人間は地球環境を大幅に変えたが、本来野生環境に適合するよう進化した感情システムは、急激な人工環境の進化に対応しきれず、社会にゆがみが生まれているとし、そのゆがみにより人類絶滅の道もあるとした。その克服のためには、「今」を生きている私たち一人一人が、多様な背景を持つ他者との建設的な対話を通し、互いに少しずつ賢くなっていくしかないとしている。

 教育に関わる私たちは、いかなる貢献が可能だろうか。一人一人多様であるからこそ、対話を通して他者の経験や考えを取り入れ、自分の経験や考えを広げていくことができる。恩師であった学習科学者の三宅なほみ氏は、人が生まれつき持つ学ぶ力を「建設的相互作用」と名付けた。学校教育で重要なのは、一人一人の多様な考えを尊重しつつ、対話を通してそれぞれがより良い方向に賢くなっていくことの「良さ」を、各教科の学ぶ内容の意味や意義を作り上げる過程で子供たちに数多く積ませることではないだろうか。

 理想の授業は、授業目標に向けて、子供たちが共通の「問い」を持ち、互いに考えを出し合い、取り入れ、考えを深め、また出し合うことを繰り返し、答えを作り上げていく学習活動が保証されることである。そのために教師は、考えるに値する問いは何かを検討し(教材研究)、狙った思考過程が起きていたか見取ること(学習評価)が鍵であり、質向上には教師同士の対話による実践改善サイクルが重要となる。

 三宅なほみ氏の遺志を引き継いだ「教育環境デザイン研究所」では、実践改善サイクルのコミュニティー成長を支えており、「令和の日本型学校教育」を担う教師の対話を支える研修システムを見直す好事例である。

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