教育クラウドを実証実験など 情報化に向けた文科省の動向

2015年6月1日号掲載

 政府は平成32年度までに、小・中学校の児童生徒1人に1台のタブレットを整備する目標を掲げている。こうした動きの中で、文部科学省はクラウドを活用した教育システムやICTの活用を浸透させるための教員研修の構築など、教育の情報化を進めている。教育ツールとしてのICTの今後について、同省生涯学習政策局情報教育課の豊嶋基暢課長に聞いた。

――高校教育の一部で遠隔教育が制度化されましたが、小・中学校の状況は。

 過疎化や少子高齢化の影響により、島や山間部に小規規模の小・中学校が増えてきた。文科省ではこうした状況を受けて、小規模校のデメリットを改善し教育の質の維持向上を図るため、ICTを活用して遠隔地間の双方向型の合同学習などを行う「人口減少社会におけるICTの活用による教育の質の維持向上に係る実証事業」を今年度から3年間実施する。

 例えば、島にある小規模校と内陸部にある学校が双方向型の遠隔教育システムを活用して授業を日常的に行うというものだ。主体的・協働的な学び「アクティブ・ラーニング」を実践する上でもICTを活用した教育は欠かせない。

 ICTを活用することによって物理的な距離を乗り越え、バーチャルではあるが同級生ができる。両校の教員が同じ教科書で同じ進度で学習を進めていく。ただ、バーチャルでできるものは限られている。リアルでの学習活動も交えて実施してほしい。実証事業は3年間で、体系的に主要5教科を中心にどこまで指導できるのかを検証してもらいたい。また高額なものではなく、最低限の機能を残しつつ低価格なシステムを導入することも重要だ。全国の自治体が厳しい財政事情の中で、コストパフォーマンスの高さを考慮に入れないといけない。今秋には本格的に開始できると思う。

 こうしたICTを活用し遠隔地間の学校を結んだ授業を実施することは、学校統廃合の判断材料にもなると思う。地域の核となっている学校もあり、本実証研究を通じてICTを活用することにより教育の質を高める方法もあることを示したい。

――教育現場でのICT化が進めば、ICT支援員のニーズも高まるのでは。

 その通りだ。現在では、電子黒板やタブレットを活用する授業も増えている中で、ICT支援員のニーズは高まっている。多くは機材のリース契約をした企業から派遣されている者が多い。だが、供給不足が目立っているのが現状だ。ただシステムに強いだけではなく、教材研究にも精通した人材が望ましい。高等学校において遠隔授業が正規授業化されたことや、ICTを活用した教育が広まるにつれ、教員免許をもっているなど教育にも精通したシステムエンジニア(SE)が必要になってくるだろう。

 今後、文部科学省としては、ICT支援員の育成を考えた研修も検討していきたい。将来的には、高度な技術を教員が身に付けつつ、トラブルがあったときまたは教材研究を一緒に行うなど専門知識が必要になったときに、ICT支援員を活用していくような体制ができたらと思う。

――教育クラウド整備はどのようになっているか。

 文部科学省は総務省と連携し、平成26年度から平成28年度までの3年間で「先導的な教育体制構築事業」を行っている。これは教育クラウドで学校や家庭をシームレスにつなぐ先導的な教育システムだ。総務省が教育クラウドなどのハード面を整備するほか、文科省は、クラウドを介して教育コンテンツを活用する授業などを実施する実証検証を行う。

 昨年度の後半にクラウドシステムが動きだしたところであり、2年目に入る。今年度から本格的に授業の回数を重ねていく。さらに児童生徒の家庭でのICTを活用した学習の効果も検証する。

 児童生徒の一部にはWi―Fiルータの貸与を行う。自宅でタブレットを活用し、ビデオ授業を視聴した予習や復習などに取り組んでいる。

 3年目はその結果を踏まえ、授業のパターンを整理していく予定だ。実証地域はICT教育を先進的に行ってきた福島県新地町、東京都荒川区、武雄市と連携している佐賀県の3地域だ。全国約1800自治体に広めるために、モデル性の高い地域を選んだ。

 新地町は町内全校の小学校3校と中学校1校が実証校だ。小さな自治体をイメージした。同町は遺跡を活用した授業をするなど、まちづくりの一環として授業を展開している。

 荒川区は中核都市を想定した地域だ。同区の全小・中学校34校のうち4校を実証校に選定した。実証校以外にも広がるような教育コンテンツとして学習ドリルを利用するなど、活用の標準化を図っている。

 佐賀県は武雄市と連携して、小・中・高校と特別支援学校の4つの学校種を選定した。県と市が連合したパターンだ。

 クラウドを活用した教育システムを全国に広めるために、地域の特性に合わせた実証地域を選んだ。

 こうした実証研究の結果を踏まえ、将来は、民間企業が同様の教育クラウドシステムを構築してほしいと思っている。

――教員のICT研修についてはどのような施策を実施しているか。

 教員のICT活用指導力の向上を図るため、研修プログラムの策定などに取り組む「ICTを活用した教育推進自治体応援事業」が今年度からスタートした。このうちの指導力パワーアップコースは、校内研修リーダーを養成するための研修プログラムを開発した「ICTを活用した教育の推進に資する実証事業」(26年度)の普及版である。全ての教員がICTを活用した指導力を身に付けることができるように研修プログラムを策定するのが、大きな目的だ。

 教員養成課程を設けている大学や教職大学院と都道府県・政令指定都市教育委員会が連携して研修プログラムを構築する。このプログラムでは、教育委員会が大学に現場の課題などを提供し、それを基に学生と教員が共に解題解決を図るような講座を展開する。大学は教育委員会に、専門的な知見を提供する。この2つを組み合わせ、ICT指導力が向上する研修プログラムを大学と教育委員会が一緒に作り上げていく。学生自身が現場の課題にふれ、刺激を受け、よりよい教員になってもらいたい。教員の方も、学生とともに学び、ICTを活用した新たなアイデアを生み出してほしい。最終的には、研修プログラムを冊子にまとめ、全国の教育委員会に配布したい考えだ。そして国立大学附属小・中学校で実証しているモデル授業などについて各教育委員会と連携し、公立学校にも広げてもらいたい。

 このほかICTを活用した学びの実践体制構築を図るためのカリキュラムを策定してもらうために「ICT活用実践コース」を設けた。理数教育や外国語教育においてICTを活用した特徴的な学びを実践する。資質能力や言語能力を育成するなどの目標を掲げて指導してもらいたい。この事業では30地域で複数の実証校を設置する予定だ。

――情報モラル教育の重要性が今後は高まってくると思うが。

 情報モラル教育も重要な施策の1つである。平成26年度に内閣府が行った調査では、小・中・高校の児童生徒全体の約4分の3が何らかの機器でインターネットを利用しており、最も利用されている機器がスマホであったという結果が出ている。昨年は、リベンジポルノの危険性も指摘され、「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」(通称「リベンジポルノ対策法」平成26年11月)が成立した。さらにネットを通じて犯罪に巻き込まれる児童生徒も多い。こうしたことを防ぐためには、児童生徒自身だけでなく、その保護者に対しても、情報モラル教育を普及啓発する必要がある。そのため、平成27年度からは新たに「情報モラル教育推進事業」を実施する。

 この事業では、平成25年度に作成した、教員が授業で活用することができる情報モラル教育教材に、新たにいわゆるリベンジポルノやSNS上の不適切な発言や画像掲載の投稿などのトラブルの最新の事例を追加することに加えて、保護者用の啓発資料も作成する。保護者が情報モラル教育を理解し、漠然と注意するのでなく、なぜだめなのか根拠を示すことが重要だ。理解している保護者では、家庭でルールを決める傾向が高い。子供を守るために、スマホや通信機器が付属しているゲーム機にはペアレンタル・コントロールができることを認識し、有害サイトの閲覧禁止ができるフィルタリングなどの防止策を取ることも大切だ。昨年から家庭でのルールづくりを推進するため、「考えよう 家族みんなで スマホのルール」をスローガンにロゴマークを制作(図)して、教育委員会や関係団体と協力した取り組みを行っている。このような取り組みも推進していきたい。

(詳細は「教育新聞」紙面に掲載)