(道徳教育 これからのポイント)考え議論する道徳の実現を目指そう

特別の教科 道徳では、「道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を多面的・多角的に考え、自己の生き方についての考えを深める学習」などを目指す。道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度を育てる視点やいじめへの対応や評価の在り方などの課題を踏まえ、3人の識者にこれからの道徳教育のポイントなどを改めて提言してもらった。


考え議論する道徳の実現を目指そう
岐阜大学大学院教育学研究科准教授 柳沼良太

従来の「道徳の時間」が「特別の教科 道徳」として新たに位置付けられる中、指導方法も従来の「読み取る道徳」から「考え議論する道徳」への質的転換が目指されている。

これまでの道徳授業では、読み物資料に登場する人物の心情を場面ごとに理解させ、授業のねらいとする道徳的価値を自覚させるワンパターンな展開が多かった。それに対して、新しい道徳科では、多様で効果的な指導方法を取り入れ、子どもが道徳上の問題解決について考え議論するような授業展開への刷新が求められたのである。

ただ、こうした指導方法に関しては、誤解や曲解も多いので、学習指導要領における道徳科の目標と指導方法を根本的に吟味しておこう。

まず、道徳科で育成すべき資質・能力とは、生きて働く「道徳性」である。こうした道徳性は、「人生で出会うさまざまな問題を解決して、よりよく生きるための基盤となるもの」である。

それを踏まえた道徳科の目標は、「よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うため、道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を(広い視野から)多面的・多角的に考え、自己の生き方(人間としての生き方)についての考えを深める学習を通して、道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度を育てる」(かっこ内は中学校)を目指している。

ここでいう「道徳的諸価値の理解」とは、授業の「基」あるいは「きっかけ」に過ぎず、道徳性(道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度)を育成するのが、道徳科の目標なのである。

従来のように「道徳的諸価値の理解」に固執し過ぎるとコンテンツベースの授業になるため、道徳性の育成を目標とするコンピテンシー・ベースの授業に質的転換し、多面的多角的に考えるアクティブ・ラーニング型の授業への改良が求められている。

そこで、道徳科における問題解決的な学習とは、中学校学習指導要領解説によれば、「生徒一人一人が生きる上で出会う様々な道徳上の問題や課題を多面的・多角的に考え、主体的に判断し実行し、よりよく生きていくための資質・能力を養う学習」である。

問題解決的な学習を取り入れた道徳授業は、次のような事例が考えられる。「寛大な心をもって他人の過ちを許す立場」と「法やきまりへの放縦で自分勝手な反発を許さない立場」で対立する物語を提示して、「登場人物はどうしたらよいか」「自分ならどうするか」「人間としてどうすべきか」について考え議論するのである。

こうした道徳科では、体験的な学習も取り入れられるだろう。例えば、上述した問題場面で、どのように言動すべきかについてせりふを考えた上で即興的に役割演技したり、実際に行動してスキルを学習することができる。道徳授業は、実際のいじめ問題をはじめ、情報モラル、生命倫理、環境倫理、持続可能な社会などの今日的課題を考える上でも有効である。こうした緊急性がありながら、答えの出しにくい問題では、子ども自身が主体的に考えるとともに、学級の友達と協働しながら探究し合い、互いに納得できる解決策を創り出すのが大事だ。

道徳科は、「生きて働く道徳性」を育成するため、問題解決的な学習や体験的な学習をいかに有効に取り入れ実践できるかがポイントになる。こうした指導方法については、今春にも文科省から教師用指導資料でモデルケースが示される予定だが、実際には学校現場の創意工夫に期待するところも大きい。ぜひ、道徳科の趣旨や目標に準拠した指導方法を導入し、子どもたちの明るい将来を切り開くような多様で効果的な授業を展開してほしい。


柳沼良太(やぎぬま・りょうた) 日本道徳教育学会理事、中教審道徳教育専門部会委員、道徳教育の改善等に係る調査研究協力委員などを務める。著書に『問題解決的な学習で創る道徳授業~超入門』(明治図書出版)、『実効性のある道徳教育~日米比較から見えてくるもの』(教育出版)、共著編著に『新教科道徳はこうしたら面白い』(図書文化社)、『道徳の時代をつくる!道徳教科化への始動』『道徳の時代がきた!道徳教科化への提言』(両・教育出版)などがある。

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