高校英語教育と大学入試(8)慣用表現力を育てる

ココネ言語教育研究所所長、慶應義塾大学名誉教授 田中 茂範

今回は「慣用表現力」というコンセプトを紹介したい。慣用化された表現は、熟語、成句、イディオム、決まり文句、連語、定型表現、ことわざ、箴言(しんげん)と呼ばれるものを含む。反復使用により表現が固定されて人々に連鎖的に広がり、共有されるようになった表現群である。

日本語で言えば「おはよう」「ほんの少しだけ」「よろしく」「要は」「茫然(ぼうぜん)自失」をはじめ、多様な表現が含まれる。英語ではformulaと言うが、a lot of、you know、the point is…、to start with、as a result、give me a breakなどが含まれる。

デンマークの言語学者イエスペルセンによれば、言語は自由表現(free expression)と慣用表現(formula)を両輪にして機能する。ここで言う自由表現とは、単語と文法を使ってその都度自由に紡ぎ出される表現であり、言語の創造性の現れである。生成言語学では、この創造性(新しい文を自由に作る現象)こそが言語の本質と捉えている。

だが、近年優勢な認知言語学では、言語の慣用性に強調点が置かれている。正確な数は知る由もないが、どの言語も数万に及ぶ慣用表現を持つことは間違いない。日常言語の3~4割が慣用表現で成り立っているという試算もあるほどだ。

英語教育では慣用表現をどのように扱っているか。生徒が「熟語帳」の内容をひたすら覚える、というのがその典型である。もちろん慣用表現には、いわゆる「機能表現」(提案や依頼をする際の定型表現)も含まれており、これについては教科書でも文法表現と同様に扱っている。しかし、教師も生徒も総じて「慣用表現は覚えておくもの」という強い信念を持っており、一方で、やみくもに覚えたところで使えないという問題もある。

現在、「慣用表現力」というコンセプトは存在せず、その定義もなされていない。筆者はここに慣用表現指導の問題があると考える。慣用表現力は単語力、文法力と並んで、言語資源の三つの柱の一つである。してみると、教師は「慣用表現力を育てる」明確な自覚を持つ必要がある。

慣用表現力を構成するものには①的確に意図を表現する決まり文句を選択できる②慣用表現の型を利用して表現を作り出せる③表現の流れを調整できる④慣用表現を連鎖化させて、プレゼンテーションや司会ができる――の四つがある。

「いい加減にして」と言いたいときはGive me a break.が候補だし、Nothing is more A than Bの型を利用すればプレハブ効果(中身だけ入れ替えて簡単に英語表現を作り出す)が生まれる。to start withやLet me put it this way.やWhat I’m saying is…は、会話で表現の流れを調整するナビゲーター機能を持つ。プレゼンテーションに必要な、目的を述べる、流れを説明する、分類する、例示する――といった工程も、全て慣用表現を利用して実践できるのだ。