【連載】脳科学から手書き・書道の意義を考える 第2回 まず学習できる脳を作る

東京書芸協会会長 川原世雲

 
 書道の講習で、教えてもなかなか覚えてくれず、何度同じことを言っても初めて聞いたような反応があるなど、どうしたら理解してくれるのか、さまざまな試行錯誤をしてみました。その中で、一番効果的だった方法を紹介したいと思います。

まずは、学習できる脳を作ります。これを朝の頭体操と呼んでいます。1日の学習を始める前に頭の準備体操をすることによって学習する脳を作れば、学習内容の吸収に大きな差が出てくるのです。朝一番に「さあ、今日も朝の頭体操をします」と言うと、受講生は皆「えー」と言うのですが、やり終わるとすっきりするようで、講義への集中力がぐんと上がります。

大脳皮質はその働きによって前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉の4つに分類することができます。前頭葉は高等な動物ほど発達していて、大脳皮質の割合はネコで3%、チンパンジーで17%ですが、人間になると30%近くを占めます。

この前頭葉には、学習、思考、意欲、注意、計画、推論、創造、抑制、情操など、人間らしい高次な機能が集中しています。また、この前頭葉は脳のほかの領域からの情報を得て、それに対して指令を出す役割も果たしています。脳を育むには、この前頭葉を中心として、広く脳を活動させることが大切であると考えられます。

それでは、前頭葉を活動させる朝体操の一例を、成人の場合で紹介しましょう。

隣り合った生徒同士が互いに自分の住所と氏名を言い合います。それを記憶して、隣の人の住所・氏名をはがきに美しく書くという作業をします。分からなくなっても書き始めたら隣の人に聞いてはいけません。

これは何をしているかというと、まず「話す」「聞く」、それから「会話」もしています。それから「記憶」し、配字、字粒などの空間の構築性について考えながら、指の細かい運動を伴って「書く」ことを行います。簡単なようですが、頭はフル回転です。

個人情報の問題もあるので、架空の住所・氏名のカードを配って、それをもとに互いに伝えて書かせるのもよいでしょう。また、物語を途中まで与え、続きを創作したり、詩を朗読して書かせたりするのもよいでしょう。「書く」「記憶する」「創造する」を中心とした言語活動であれば何でも構いません。

この朝の頭体操の所要時間は15分ほどです。十数回の講座が終了する頃になると、この朝体操は受講生にも好評で、現在も新しいネタを開発中です。時間が許せば、ぜひ「書く」朝の頭体操を試してみてください。