【連載】脳科学から手書き・書道の意義を考える 第3回 文字添削、示範から指導を問う

東京書芸協会会長 川原世雲

 
 教師が生徒の文字を添削指導するときは、生徒の上達を期待し、直すべき点ばかりをたくさん指摘しがちです。または、手書き文字には生徒自身の個性が宿るので、型にはめて直すのはよくない、との方針から、まったく添削をしない先生もいます。結論からいえば、どちらも良くありません。脳科学の視点から、文字の添削指導をどのようにしたら良いかを提案してみます。

まず、添削指導は行った方がよいでしょう。紙の中央に、垂直な線一本を引くにしても、指の巧緻な運動と空間の構築性という脳の活動を行っているのですから、しっかりと脳を育んでいることになります。これを指導することは、個性を矯めるのではなく、実際はその逆です。考えて書かせることによって脳の前頭前野を鍛え、子どもの「創造性」など高次脳機能を育むことにつながります。

それではどのように添削指導すべきでしょうか。まずは、よい点を二つほめ、それから直すべき点を一つ指摘する、という「二・一指導」を勧めます。例えば、「字粒」や「字形」はよくできているので、「配字」に注意するようにと指導します。作品を多面的にとらえ、良い点と悪い点をさがしてどちらも評価します。生徒に評価のポートフォリオを提示してください。(図)

ただし、書は極めて並列処理的な活動であるため、一つの要素が高まると、他の要素が低くなるということが起こります。つまり、「配字」がよくなったら、今までできていた「線質」が崩れてしまったりします。美しく文字を書こうとすることは、脳内で大きな汗をかく行為であるだけに、これは仕方のないことです。これらが同時にできるようになるよう練習を重ねることで、能力を高めていくのです。

それから、先生は、皆の前で手本を書いて見せることをぜひお勧めします。最高の書きぶりを、最高の角度から見ることのできる映像を見せるよりも、生の情報というものは、少々下手でも、脳の認知という点からすれば、別次元といえるほど情報量が多いものです。大勢の生徒の前で変な手本を書いて見せられないという人もいますが、先生が一汗かいて手本を示してくれる真摯な姿勢は、必ずや児童生徒との距離を縮めてくれます。

プロの教師は、ひと汗をかき自分を磨く時間を、仕事として確保できます。この一汗が10年経ってバケツ一杯になるか、カラカラのままであるかは、1回1回の授業への取り組み方の差で決まるでしょう。