【連載】魅力ある教師となるために 第6回 エピソードをポケットに その1

多賀歴史研究所長 多賀譲冶

  

「洗濯物を取り忘れたな…」。農家の庭先に干されたシーツを車窓から眺めながらニヤリとしてから数日後、同じ家で同じように洗濯物が雨にさらされていた。のんきな人というのは世界中どこにでもいるもので、それを友人の奥さんに話したら、「雨に打たれて洗濯物が柔らかくなるのよ」と言われてビックリした。

 石灰質の多い土壌が広がるフランスのノルマンディー地方は、水道の水にも石灰分が多く含まれている。そういえば町で買ってきた電気ポットの内側が、チョークっぽい粉ですぐに真っ白になるのを思い出した。奥さんの説明はこうだ。「水道水や井戸水で洗った洗濯物は、そのままだとゴワゴワになるので、ものによっては石灰分を流す必要がある。農家ではこうした工夫が伝統的に残っているが、一般家庭でもよくあること」だそうだ。

 フランス人はあまり傘を持たない、雨の降り方が日本と違って柔らかく、粒の大きめな霧が降ってくるという感じなので、びしょ濡れになるということがまずない。

 ところが、海峡を挟んだ英国では、日本と同じようにしっかり降るので、傘が紳士の必需品になる。ノルマンディーでは、柔らかく降る雨のリンスで着心地・寝心地がよくなるというわけで、ところ変わればものの見方、使い方も違うというのを知った出来事であった。

 ヨルダンのペトラ遺跡は映画「インディ・ジョーンズ」のロケ地にもなった古代ローマの遺跡である。岩壁に挟まれた道を颯爽と馬で駆け抜けると目の前に神殿が現れる光景を覚えている読者も多いだろう。

 この遺跡の特筆すべき点は、水路が張り巡らされていることである。当時も乾燥地帯だったわけだが、彼らはダムを造り、雨期の水をうまく利用していた。その帰り道に見た光景である。

 日中の2時頃というのは最も暑い時間帯で、暑さに慣れている土地の人々でさえ、滅多に外へ出ない。ところが、道端に羊を集めて寝ている人がいた。砂漠といっても全く植物がないわけではなく、所々に貧相な草が生えている。羊たちはそれを餌としているわけだが、私が驚いたのは、いわば生きている羊毛の中で平然と寝ているというその行為だ。私はすぐさまガイドに尋ねた。そして返ってきた答えに驚き、納得した。羊の体温の方が外気温より低く、中は涼しいのだと…。同じようなことはイランでも経験した。

 路線バスにはエアコンはなく、しかも窓は閉めきられていた。いくら何でもと思い、私が窓を開けようとすると、周りの人が身振り手振りでやめろという。それでも強行してすぐに分かった。目玉と唇がみるみる乾いていくではないか。即座に窓を閉めると、人々は「分かっただろ」とほほ笑んだ。もらったコーラを飲むと、体中から目に見えない水蒸気が抜けて涼しくなる。汗がうっとうしい日本とは大違いだ。

 現役時代の私は授業中によく脱線をしたものだが、スパイスのような脱線もあって、旅先や日常の出来事に「おや?」と思うことが、子どもの好奇心に火をつけるきっかけになるという話である。