【連載】脳科学から手書き・書道の意義を考える 第5回 筆や鉛筆書きは脳発達に良い

東京書芸協会会長 川原世雲

 
「手は外部の脳」といわれます。手は外界からの情報を察知し、それをコントロールします。手からの情報は、まず頭頂葉の体性感覚野に送られます。その感覚情報は前頭前野で処理され、前頭葉の運動野を通して手の動きとなります。

皮膚は「露出した脳」ともいわれます。動物の起源をたどると、ゾウリムシやアメーバといった単細胞生物にさかのぼれます。これらの生物は、細胞膜が外の世界を知覚し、行動を判断し、決定する役割をもっています。脳がない単純な生物でも、皮膚に相当する細胞膜が、脳と同じような働きをしているのです。つまり、皮膚は単なる膜ではなく、脳の機能も備わっているのです。

特に「手のひら」の感覚は鋭敏です。手をおおう皮膚は後面(背部)が薄く0・4ミリであるのに対し、前面(腹部)は0・7ミリと分厚くなっています。皮膚には感覚神経線維の末端が集中しています。

文字を書く際に重要なのが筆圧を感知する能力、すなわち圧覚です。手にかかってくる圧を脳で的確に感知しなくてはなりません。書字の学習は、造形だけと誤解されがちですが、圧をコントロールする「リズム性」も書の重要な要素です。

毛筆を始めたばかりの生徒が一画書いては墨つぎをし、また一画書いては墨つぎをするのを見かけます。これではリズム性をもって書字をすることにならず、手を鍛える効果も低くなります。墨つぎをせずに書けば、墨は徐々に少なくなっていきますし、それにしたがって手にかかってくる圧も変化していきます。脳はこの変化する圧を感知しながら、書字を行うのです。

これが筆ペンなら、自動的に墨が補給されるので墨つぎの必要はなく、脳の活動を促す効果は筆ほどありません。これは、鉛筆とシャープペンシルにもいえることです。鉛筆は徐々に先が丸くなっていきますが、シャープペンシルはボタンをノックすれば、常に一定の圧で書くことができます。便利なものですが、教育という脳を育む場では、筆や鉛筆を用いる方が脳の発達に良いでしょう。