【連載】いつからいつまで特別支援 第8回 「LD問題の25年」~発達障がいのこれまで(その③)

臨床発達心理士 池田啓史

東京都議会でLD問題を取りあげ、協力者の議員が本会議で質問をし、それに対して都教委の教育長が答弁するという日がやってきました。

実は質問書を作成する過程で、こんな事もありました。議員から冒頭にアインシュタインやエジソン、トム・クルーズもLDだったという文言を入れたいんだが? との提案がありました。

当時からLDは苦手な事もあるが、常人にはない優れた才能も持っており、歴史的な発明や発見をした人も少なくないといった情報も紹介されていました。トム・クルーズは後にディスレキシア(読み障害)と診断されますが、台本が読めないというハンディを克服してトップスターとして活躍しています。

LD問題をポジティブに考えようという運動も起きていました。その当時に入手したアメリカのLDの専門誌の表紙の裏面には「かつてLDだった8人の偉人」が紹介されています。

改めて挙げてみます。アインシュタイン、エジソン、アンデルセン、アンリ・ロダン、ジョージ・パットン将軍、ウッド・ロー・ウィルソン(米国24代大統領)、ウインストン・チャーチル英国首相、レオナルド・ダ・ヴィンチです。

しかし、まだ学術的に立証された訳ではない状況で、しかも後年これらの人物がアスペルガー症候群として登場することにもなったということから、私たちは議員にはその時は遠慮願うようお願いしました。

新宿の新都庁舎では、都議会の中継が職場のテレビで視聴ができました。私たちは議員の質問と教育長の答弁を心地よい緊張感で見ていました。議員は、数多い議員の中で初めてLD問題を都議会で取りあげるというオーラが感じられる力強い質問でした。教育長からは、LD問題が喫緊の課題であるとの都教委の姿勢と理解・啓発のためのリーフレットの発行・配布と教職員への研修会の実施およびそのための予算計上が答弁されました。

もちろん、その答弁書は私たちの手になるものでした。500万円の予算案が都議会で約束されました。LD児親の会結成から約5年。保護者、学者、行政そして政治家が手を携えて実現した瞬間でした。その後、本会議を終わられた教育長が戻り、私たちが呼ばれました。教育長からは、ねぎらいの言葉をいただきました。

そして、本会議後に都知事室で局長たちが、口々に、自分にもLDの部分があった、LDというのは、決して怠けているのではない、努力してもうまくいかない苦手なことがある子どもたちなんだ、という話題がしばらく続いたそうです。当時の鈴木俊一知事が「僕はどうやら算数のLDだったようだな」と、自身の小学校時代の事を語られたというのは、一番うれしいエピソードでした。

首都東京のトップがLDを理解され、その支援を約束された瞬間に立ち会えたことが、今でも忘れることのできない生涯の思い出となりました。平成7年3月27日、国が「学習障害児等に関する指導について(中間報告)」をまとめ、各都道府県に送付する半年前の出来事でした。

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