【連載】特別支援教育の根本 8 手話は各国語と同じ言語

(学)大出学園支援学校若葉高等学園理事 清野佶成

 

聴覚障害の視点から、特別支援教育を考えてみたい。

フランスの耳鼻咽喉科医師アルフレッド・トマテス博士は、「人は、耳で聞き取れない音は発音できない」と言った。音を聞き取れない人は、言葉を発することができない。このことは、発声言語によるコミュニケーションができず、生活に困難が生じることを意味する。これを解決するのが教育の課題である。

障害者の差別にあたるこんな事例があった。

聴覚障害者が役所の窓口で、筆談でやり取りをしていた。すると、後ろに並んでいた人が、待ち時間が長いことに文句をつけた。担当者はしばらくその人と話し、突然、聴覚障害者に「後でゆっくり聞くので」と書いて見せ、後回しにした。このような例は数多くある。窓口に、手話が分かる人がいないことが問題である。

かつて、スウェーデンに教育視察に行った。日本でいう聾特別支援学校を視察した。当日は、校外行事で生徒がいなかった。校長は「聾学校の生徒にとって、第一言語は手話、第二言語はスウェーデン語。聾教育、聾学校は絶対必要。聾者にとって、全てのスウェーデン人が手話をできるようにならなければ、生活の困難さは解消しない」と力説していた。

平成18年12月13日の国連総会で、「『手話』は言語である」と定義した障害者権利条約が、全会一致で採択された。「手話」は、各国語と同じように言語であると認識すべきである。1日も早く、多くの人々が、手話を使えるようにならねばならない。

さて聴覚に障害があるとは、どういうことであろうか。高齢者になると誰でも難聴になりうる。これは加齢性難聴である。聞こえが悪くなり、生活場面のトラブルと心理面に影響が出てくる。そのような事態が、学齢期の子どもに起こったらどうであろうか。教室で先生の言っていることが分からない。聞き誤りが多くなって人間関係がうまくできない。意思疎通ができず、疎外感や孤立感、自信喪失などが起こる。  聴覚障害には、聴力障害、聴覚過敏、錯聴、耳鳴りなどがあるが、聴力障害が多い。

教育においては、言語を獲得する以前に聴覚障害が起こったか、それ以降に起こったかによって、その子どもの成長発達に重大な影響がある。

そのため、聴覚障害を早期に発見し、その子を早期に教育・支援することが必要である。早期発見するには、乳幼児期に聴覚障害を発見することが必要であるが、聴力検査をすることが非常に難しい。検査をするだけではなく、行動観察などからも考えねばならない。自然な環境や遊具などの場面の中でどのような行動をするかを観察する必要がある。

聴力検査には、最小可聴値検査の気導聴力と骨導聴力があるが、安定した測定結果をえるには、児童期の実施が望ましいと考えられている。

さて、聞こえていても言葉を聞き取る能力と聞き分ける能力がどうであるかが重要である。専門家である耳鼻咽喉科などの医療機関で検査を受けることが絶対必要である。近年、補聴器などのエレクトロニクスや人工内耳などの医療が進歩し、従来の教育上の就学基準とした一律の判断をしない、聴覚活用の状況と話し声の理解を基準として判断するようになっている。

一応、聾学校の対象者は「両耳の聴力レベルがおおむね60デシベル以上のもののうち、補聴器等の使用によっても通常の話し声を解することが不可能または著しく困難な程度のもの」である。

難聴の特別支援学級は「補聴器等の使用によっても通常の話し声を解することが困難な程度のもの」。通級による指導(難聴)、「補聴器等の使用によっても通常の話し声を解することが困難な程度の者で、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とするもの」。通常学級にも難聴の子どもが在籍している。

補聴器を装用していても、装用自体が心の負担になっている事態もある。聞こえにくさを補うために、座席の位置や板書、視覚的教材の活用などをして、困難を克服し、周りの物的な環境を改善する配慮をすべきである。