【連載】脳科学から手書き・書道の意義を考える 第7回 筆記具を正しく持つのが重要

筆記具を正しく持つことの大切さについて、脳の機能と構造からお話しをしたいと思います。

図は、「ペンフィールドのマップ」と呼ばれています。カナダの脳外科医ペンフィールドが、体の各部と対応する運動野の位置関係を調べ、図にしたものです。この図によれば、繊細で機敏な運動をする筋肉を必要とする部分(手や口など)と関係する脳の部分の面積が広いことがわかります。逆に、胴や尻などは、体の面積は大きいのに、運動野に占める面積は少ないのです。

そして、特に親指がいかに脳のさまざまな領域の、しかも前方を使用していることが分かります。「文字を書く」という行為は、脳の広い範囲の並列的な使用を強いるものです。文字知識をどこからか取り出すのではなく、脳の複雑なネットワークによってなされるのです。それだけに、親指の細かいコントロールを伴った書字活動は、人の高次脳機能(学習、思考、注意、抑制、判断など)を高めるのに効果があります。脳をより効率よく動かすことになるわけです。

しかし、親指の細かいコントロールを伴わない書字活動、いわゆる握り持ちで書くと、意外なことに、読みやすい文字が書けてしまうことがあります。握り持ちは筆記具を支える力が強く、いわばしっかりと保持しすぎ、活字のように平板な線が書けるため、そのようなことが起こります。ただ、握り持ちは手首に負担がかかるため、大変疲れやすく、一面的な力のコントロールしか効きません。

親指の先で筆記具を支える、いわゆる正しい持ち方で書いた文字は活字的な均等さはやや落ちるかもしれませんが、上下の滑らかな動作が加わるだけに、右上がりの動きや、中心へのまとまりといった奥行き感が出てきやすく、活字とは違った流れ良い読みやすさ、表現の豊かさが加味されます。正しい持ち方によって、脳前部の活動を広く促すという点を考えると、正しい持ち方がずっと「お得」といえるでしょう。

こんな実験があります。塗り箸で小豆30粒をつかみ、皿から皿へ移動させる競争をすると、握り持ちの人の方が正しい箸の持ち方をする人より速くできました。しかし、つかむものを小豆だけでなくさまざまな形状、重さのもの30粒にして競争してみると、正しい持ち方の人の方が早かったのです。さて、どちらの能力が高いといえるでしょうか。

正しい持ち方は、一朝一夕に身に付くわけではありません。それだけに、指導する側も脳科学的に見て、教育上、重要であることを理解し、繰り返しの指導をなすことが必要だと思います。