【連載】脳科学から手書き・書道の意義を考える 第8回 言葉として文字を書くのが大切

東京書芸協会会長 川原世雲

文字は言葉を表わすので、文字を写して書けば、言葉を書くと考える人は多いでしょう。脳の活動という視点で考えると、文字を書くのと、言葉を表さない線画を描くのとでは、大きな違いがあるのです。

興味深い実験があります。光トポグラフィーという脳の活動を観察する機器を用いて、言葉ではない線画を描くときと、言葉を書くときの脳の活動の違いを測定します。

次々と示される描画カードを書き写しているときは、脳の左半球の活動は見られません。「ナイフ」「えんぴつ」「電話」などといったカードの絵を見せて、それを言葉にして書くと、左半球の側頭葉の言語野、ブローカ野、ウェルニケ野などが活動を始めます。そして、再び描画カードに移ると、左半球の言語野は活動しなくなります。

はたから見れば、同じ「書く」という動作、指の細かい動きをしているとしか見えないのですが、脳の活動の仕方は大きく異なっているのです。

文字の要件には「形、読み、意味」の3つがあります。脳の機能と構造から考えれば、習字をする際にも、手本となる文字の「読み」や「意味」を理解してから練習したほうが良いのです。

「読み」と「意味」の理解がないままでは、描画の練習になってしまい、脳のさまざまな領域を、並列的に活動させるのを指向する教育として「書く」にならない恐れがあります。例えば古典の臨書をする場面では、難解な文字が頻出しますが、そのときも「読み」や「意味」を把握させてから行えば、教育的効果が期待できるでしょう。

手本が文章などの場合は、それについて説明して、生徒に何が書かれているかをよくイメージさせ、「言葉」として理解した上で練習させるのが重要です。

書道の授業は、ともすれば手本を写し、それと同じように書ければおしまい、となりがちです。例えば、自分で選んだ好きな言葉を書いたり、自分で考えた言葉や文を美しく書いたり、といった課題も書道の授業が教育的意義を持つ1つの方策でしょう。

文字の形を美しく整えられるようにする、これは書道の授業の大切な目的の1つですが、さらに「言葉」として書くのを大切にしなくてはならないはずです。

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