【連載】飯田稔のすばらしき教員人生 95 入学式の「校長先生のお話」

■ハンカチーフの例話

P小学校の入学式風景、G校長の「校長先生のお話」(式辞)だ。校長は、ポケットから白いハンカチーフを出して、演台の上にわざと落とした。

そして、「このハンカチは、自分でポケットに戻れますか」と、問いかけた。「落としたハンカチは、自分で拾わなければなりません」と続けて、「小学校になったら、自分でできることは、自分でしなければならない」と、話を結んでいく。時間は、わずか5、6分でしかない。これはいい話だと、新任教員の筆者は感心して聞いていた。

周囲の同僚も、ニコニコとしながら「校長先生のお話」を聞いているではないか。だが、このニコニコ顔が何かは、やがて分かる。

■今年も同じだよ

入学式に参列している上級生の間から、ヒソヒソ話が聞こえてくる。「あっ、今年もハンカチの話か」と言う子がいる。「去年の入学式と同じ話だ」と、うなずいている子もいた。どうやら、校長の話は、昨年も一昨年も同じ内容、同じ語り口であったらしい。

子どもは正直だ。入学式の様子を、覚えているのだから…。そして、毎年同じ話であることに、子どもなりに呆れているのだろう。

話の先を急ぐ。この日から十余年、G校長の在任中は来る年も来る年も、入学式のたびに、このハンカチの話を、筆者も聞くことになってしまった。「あっ、またか」と思いたくなる年、(入学式)もあった。どうして、G校長は、毎年同じ話をしたのだろうか。

■校長の胸中を想像

ア.この話は、感銘を与えるから、イ.1年生にも分かりやすいから、ウ.式辞を簡単に済ませたいから、エ.毎年、草稿を考えるのは面倒、オ.前の年のことは、参列者も忘れている。

校長の胸のうちを考えて、選択肢を5つ立ててみた。おそらく、エとオが胸のうちの中心。それに、ウを表立てた理由としたのではないか。

校長の式辞を、同僚たちがニコニコと聞いていたと観察したのは失敗。実は、ニヤニヤと呆れて聞いていたのだろう。このことから、あ.ポストへの慣れはまずい、い.話の内容は、毎回整える誠実さ、う.相手は子どもだからと見くびらない、え.横着は禁物、お.教師はいつもフレッシュマンと、筆者は考えたのだ。

(元公立小学校長、千葉経済大学短期大学部名誉教授)

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