【連載】いつからいつまで特別支援 第17回「個別指導計画」誕生秘話(その⑦)

臨床心理学士 池田敬史

 

平成9年2月に東京都教育委員会から刊行された「障害のある児童・生徒のための個別指導計画Q&A」は、通常の都立特別支援学校に一部、区市町村教育委員会に一部、特別支援学級設置小中学校に一部という配布予算基準に従い、いわゆる都庁交換便という方法で、配布されました。

しかし、私たちは、なるべく多くの教育現場の先生方に実際に手に取って読んで、実践してもらいたいとの思いから、当時、目黒にあった、東京都立教育研究所で報告会を計画しました。カラー刷りの案内チラシを作り、全都に撒きました。そこに、「当日参加された方にはもれなく1冊差し上げます」という但し書きをつけたところ、当日、予想を上回る600人を超える参加者が集まりました。

会場の講堂の定員は400人です。大混乱の中であふれた人達は、100人収容の2カ所の研修室に振り分け、同時中継のビデオを初めて使いました。今でいう、「パブリックビューイング」の走りでした。教育関係の会合では、異例ずくめの報告会となりました。

中には、受付に数回並んで、何冊も手に入れた方もいました。

とにかく皆さんに関心を持っていただき、この「Q&A」を使って、とにかく新しい個別指導の計画を作ろうという機運が高まったのは、とてもうれしく思いました。

さらに、先生方の熱意に応えるためには、併せて、個別指導計画に基づいた授業の内容も改善していくことが必要と考えました。実は、一部の学者や研究者からは、個別指導計画についての批判も受けました。

例えば生活単元学習や、作業学習の個別指導計画という指導事例を打ち出したところ、「生活単元学習や作業学習には個別指導はなじまない。知的障がいの子どもの能力を輪切りにするものである」。また当時、総合的な生活力を培うといった「全面発達」という主張をしていた研究団体などからも、「集団指導を軽視するものである」などの批判もありました。

私たちは、そのような疑問を想定し、Q&Aの中に「Q15個別指導計画を進めていくと集団指導はなくなるのですか」を盛り込んでいました。以下が、そのAです。

学校教育の基本は集団で教育活動を行うことです。集団の中で最も基本となるのが学級です。個別指導計画では、学級の中の一人一人の実態に応じた目標が明確になっています。それらの目標を達成するためには、集団の中でも児童・生徒が生き生きと自分の課題に向かっていくことができるよう工夫することが大切です。

個別指導計画による指導を進めていくことにより、一人一人の個性が尊重され、課題の達成を通して、そのよさが発揮されます。そして、一人一人が意欲的になり、学級の友達に対して積極的な働きかけが行われます。すると、友達同士のかかわりが活性化し、学級に活気が出てくることになります。

教師は、児童・生徒のそのような変容を捉えて集団指導の充実を図るのです。

現在では、こうした理念に意義を唱える人はいないと思います。

「個別指導計画」を学校教育の中核に据えることが大きな転換点であったのは、間違いないと思います。

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