【連載】学校教育相談の歩みと展開 第17回 既知の物語が思いを引き出す

函館大谷短期大学名誉教授 保坂武道

 

■対話のある授業例

連載第16回に引き続き、私自身が実践した対話のある授業例を挙げる。

前回は童話「桃太郎」を取り上げた。このほか、「花咲かじいさん」と「マッチ売りの少女」を教材に、次の項目と順序で物語を鑑賞し、そこに見いだされる「授業に生かす」カウンセリングとして重要な視点を挙げる。

(1)「花咲かじいさん」のみどころ=人の生き方について、伝統的な童話の世界を鑑賞し、見つめる。
(2)「マッチ売りの少女」の世界から、人の在り方や生き方を問う。創作したアンデルセンの生い立ちを探る。
(3)「花咲かじいさん」と「マッチ売りの少女」に共通しているものを探る。
(4)グループ討議と全体討議で、各人の考えや発見、気づきなどを述べて、シェアする。
(5)引き出された視点は、▽存在感▽達成感▽自己決定力▽自尊感情▽良好な人間関係▽コミュニケーション——。

さまざまな発見や視点がたくさん出てくる。それらは、自分の生きてきた道を振り返り、味わい、何かに気づいていく行為ともなっていった。

今日的な問題も、対話のある授業を展開する上で格好の素材である。

NHK総合の番組「クローズアップ現代」で取り上げられた「家族が脳死となったとき」を教材にした。

ある日突然、家族が脳死状態になった。医師から「心臓や肺などの臓器を、必要としている別の患者に提供できるが、どうしますか」と告げられた。臓器提供は、▽生前、本人が明確な意思を書面で表していた場合▽本人の意思が不明な場合でも、家族の承諾があれば可能——となっている(後者は平成22年の改正臓器移植法による)。

一般論ではなく、この状況にある家族の選択が迫られる。頭では理解していても、悩みや葛藤は尽きない。各人が、自分だったらどうするのかを、真剣に、十分に議論してもらう。

ハーバード大学のマイケル・サンデル教授による「白熱教室」のような、21世紀型の対話と討論がある授業ができれば願ったりである。アクティブ・ラーニングとなる。

この問題に直面した生徒や学生がクラスの中にいるかもしれない。そうした生徒や学生が承諾すれば、その時の思いを語ってもらうのもよいだろう。ただし、デリケートな問題なので、細心の配慮が必要だ。

■「走れメロス」を読んだ学生の感想から

太宰治作の「走れメロス」を、3教時かけて味わった。

1教時目は、全文の朗読を聞き、直後の感想や疑問や意見を述べ合った。物語の構成(起承転結)を押さえた上で、何が語りたいのか、主題を探った。

2教時目は、物語の精査を行った。作品の構想をグループワークで探った。焦点にしたのは、▽シラクサの街での買い物▽王城での王との約束▽故郷の村で車軸を流す大雨▽疾駆する中で濁流を懸命に渡り、山賊と争い、疲労。フィロストラトから引き留め▽刑場——の場面。

3教時目にもグループワークを行い、▽メロスのどんな気持ちが王の心を変えたのか▽作者は何を訴えたくてこの作品を書いたのか▽心理描写、自然描写、文体の優れているところ——を探った。その上で、この作品の紹介文を書いた。

この学びを通して学生たちは、▽大学に来て「走れメロス」を勉強するとは思わなかったが、随分深い読み取りができた▽グループで話し合ったのはけっこう楽しかった▽「もっと恐ろしい大きいもの」の意味が、今、少し分かりかけた▽何か自分なりの考えを見つけることができた——。

既知の物語からの学び合いは、学生から多くの言葉と思いと考えを引き出していった。

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