【連載】新・探偵がみた学校といじめ 実態を把握するために 第3回

NPO法人ユース・ガーディアン代表理事 阿部泰尚

 

五感をフル活用してよく聴く

探偵調査において、依頼主からの情報は重要情報の1つである。誰かを尾行するにしても、探すにしても、どんな人物を追うのかは、依頼主からの情報が始まりになる。だからこそ、依頼主や情報提供者から詳しい情報を聞き出すのが腕の見せどころであり、一番はじめのカギとなる。

私が探偵になってから探偵界の常識として教えられたものに、「依頼主からの情報には気をつけろ」という言葉がある。これは「依頼主は自分に不利なことは隠し、有利なことを言う。また、調査費用を安くするために嘘をつく」という意味の格言のようなものだ。

確かに私の聞き出す能力がまだ未熟であったとき、そう思う場合がしばしばあった。

しかし、今では「依頼主の話には気をつけろ」と言う人間は、聞き取る力が足りないだけなのだと断言できる。よく聴くというのは、聴覚や言葉のみの字面で判断するのではなく、見た目の違和感や話の整合性など、五感すべてを使ったコミュニケーションのことなのだ。

今、いじめの問題で学校に出入りしたり、教職員の方々と話をしたりする機会があるが、探偵界と同様に「よく聴くこと」が大切なのだと痛感する。例えば、私も録音した音声で確かに聞いた暴言を、放った本人が否認する場合がある。録音という動かぬ証拠があり、科学鑑定によって本人の声だと断定されていても、論理を超えて、自らの発言を無かったことにしようと必死になる人がいる。

ある教員は、うなずきながら言葉のみ「違います」と断言した。ある生徒は、目を伏せてまるで謝罪をするように頭を下げながら、「いじめをしているつもりはなかったです」と言った。しぐさと言葉が反するとき、それを受け取った側は違和感を覚える。私はこの2人の反応に違和感を覚え、いくつもの質問をして、結果的に事実を認めさせた。

ところが違和感を覚えることも、さらなる質問をぶつけることもなく、当事者の発言の字面だけで判断してしまえばその事実は認定できないという現実に多くのいじめの対応ができない学校では気付いていないのではなかろうか。

ある学校で起きているいじめ問題に立ち会ったとき、その学校の副校長は、私に何もできないことを力説した。ここで起きているいじめは物壊し系のいじめであるが、目撃証言などがないため、誰がやったのかわからないまま、被害を受けた子供だけが苦しんでいる。学校では、この被害児童の親をモンスターペアレントだと認識していたが、私が話した印象はそうではなく、わが子を守るために真剣になって、ごく普通の質問や学校への働きかけをしているだけであった。

そして、よく話を聴くことで、この保護者も被害児童も、単なる犯人捜査を求めるのではなく、二度といじめが起きないようにするために、いじめ予防の取り組みなど具体的な対策を求めているのが分かった。また、この学校の副校長が発言した「やった子が名乗り出てこないと私たちは何もできません」という消極的な姿勢に怒りを感じており、「いじめは絶対に許さない」という姿勢をしっかり示してほしいと思っていることも分かった。

だから、この学校の校長と副校長に、被害児童とその保護者が本音でどう思っているか話をした。しかし、結果として彼らが選んだ判断は、「誰がやったかわからない」状況では「あらゆる可能性」が考えられるから、被害児童本人のストレスを考慮して対応しないというものであった。

この「あらゆる可能性」とは、本人が自ら物壊しをした可能性も示唆する内容である。こうした詭弁は実によく耳にするが、その根本には、教師の聴く力が不足しているという問題があるはずだ。字面ではない、言葉のみではない、対面するコミュニケーションを我々人間はしているはずだ。五感をフルに使い、全身で児童生徒の話をよく聴いてほしい。

◇ ◇ ◇

著者の本業は探偵。保護者の依頼で、プロである探偵業のノウハウを活用し、客観的ないじめの実態を調査、レポートを作成するなどして数多くのいじめ問題の解決に寄与している。いじめ相談は、NPO法人ユース・ガーディアンを立ち上げ、社会貢献活動としていじめ問題解決に当たっている。同法人サイト=http://ijime-sos.com/

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