役割演技で深める道徳 ~実感的理解の創造~(5)どの場面で役割演技を取り入れるのか①

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上越教育大学教授 早川裕隆

どの場面で役割演技を取り入れたら良いのか。これもよく聞かれる質問の1つである。このことを今回と次回の2回に分けて考える。

今回は、中心発問か、それに深く関わる部分を演じることを取り上げる。道徳科の目標の「基に」を挟んだ、「道徳的諸価値についての理解」と「自己の生き方についての考えを深める」のうち、前者を特に深める役割である。

「心と心の握手」を教材とした授業を例にする。お母さんにおばあさんの境遇を聞かされた「ぼく」(以下、太郎)が、数日後、再度おばあさんを見かけたとき、どうするか悩んでいる場面(教材は、ここまでを提示する)で、「数日後、前より足取りが重そうなおばあさんを見かけたときのぼくは、どんな気持ちになったでしょう」と問う。そして、そのときの発言の内容から演者を指名し、役割演技を行った。

「ありがとうね」
「ありがとうね」

太郎は、おばあさんを見かけると、「あっ」と言って、近くの電柱に素早く隠れた。しかし、その場を立ち去ろうとはせずに、じっとおばあさんの後ろ姿を目で追い、電柱を移動しながら、一定の距離を保って後を追った。途中、おばあさんが石につまずくと、一瞬おばあさんに駆け寄ろうとする素振りをするが、大事ないことが分かると、すぐにまた電柱に身を隠した。

演じ終わった後の話し合いで、太郎は「どうしたらおばあさんが一番喜ぶか。おばあさんは頑張っているから声を掛けないで、何かあったときはすぐに助けられるように見ていた」と、身を隠しながらついていった理由と、保ち続けた2人の距離の意味を語った。一方、おばあさんは「石につまずいたとき、足音が聞こえた。あの男の子かなと思ったらうれしくなって、勇気が出てきた。ずっとついてきてくれているみたいだったから安心で、頑張らなくちゃと思って、最後まで頑張れた」と喜びを語った。そこで、後半部を読んだ後、「心と心の握手って、どんな握手でしょう。心の中をやってみましょう」と発問し、同じ演者で「心の中」を演じるようにした。

太郎が「おばあさん、すごいね。頑張ったね」と声を掛けると、おばあさんは「あなたが、ついてきてくれたから安心だったんだよ。最後まで見ていてくれてありがとうね」と言って握手をした。このように、演じられたもの(自己の生き方)を基に演じられた役割の意味を深く理解(道徳的諸価値の理解)し、それを基にさらなる役割を創造することができた。