役割演技で深める道徳 ~実感的理解の創造~(7)いじめ問題への対応の充実と役割演技

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上越教育大学教授 早川裕隆

いじめ問題への対応の充実は道徳科の課題である。では、役割演技を使って、いじめ問題を考える授業はどうあるべきか。

まず、最大級の警告として、いじめの悲惨さに関するリアルな体験を目的に、いじめの場面を役割演技で演じるようなことは、絶対にしてはならない。役割演技では「生」の感情を味わうので、肯定的な気分を味わうと教育的効果が得られる反面、ネガティブな気分を味わうと、フラッシュバックを起こすなど、子供を傷付け、取り返しのつかないことになる。授業をきっかけに、不登校や自殺を引き起こすことも考えられる。

では、どうすれば良いのか。「およげない りすさん」を教材とした授業を例に示す。

椅子をリスに見立てる。お面や役名を表す札などはなくてもよい。
椅子をリスに見立てる。お面や役名を表す札などはなくてもよい。

まず、どうしてもいじめのリアリティーを出したいなら、椅子などをリスに見立てて演じてほしい。ただし、最後まで演者を変えないことが条件である。亀たちは、連れていってほしいと言うリス(椅子)に向かって、「危ないから連れていけない」「泳げるようになったらね」「今度違う遊びのときにね」と説得するが、あきらめられないリスの気持ちを監督(教員)が代弁するとイライラし始め「わがまま言わないで」「泳げないでしょ!」と語気が強まった。

演じた後の話し合いで、動物たちがリスを「自分勝手」「足手まとい」と疎ましく思っていることが明らかにされた。その後、監督が「椅子なんだけれど、リスさんはどんな表情をしているように『見えました』か?」と聞いた。

「下を向いて悲しそうで、涙がこぼれていた」「1人で寂しく、とぼとぼ帰って行った」など、リスの悲しむ様子を想像する発言が出された。その途端、それまでの演者の表情や姿勢が一変し、緊張が走った。そこで、島に渡って遊んでも、ちっとも面白くなかった理由を明らかにし、同じ演者で翌日、児童が演じるリスと出会う場面を演じることにした。

この後の場面は、ぜひ読者の皆さんで実践していただきたい。リスの悲しみを深く想像する発言をした児童が演じるリスと出会わせると、緊張からやがて、温かな役割演技が展開されるであろう。それを支援してほしい。そして、話し合いを通じて、なぜ動物たちはみんなニコニコになったのかを問うようにする。このとき、動物たちの喜びや発見を丁寧に温かく受け入れ、十分癒してあげてほしい。

動物を演じた児童が傷付く前に救うことが肝要であり、その過程に、観客やリスを演じた児童にも安堵と温かな気持ちが湧き起こるのである。

(おわり)

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