みんなで「教える難しさ」に立ち向かう―22年の事実と実例に基づいて―(5) 応じる姿勢は「はい」という返事から

eye-catch_1024-768_kouno学習教室「エルベテーク」代表 河野 俊一

私たちの教室では、あいさつと返事を大事にしています。入室の時に「行ってまいります」「よろしくお願いいたします」と保護者、指導者の双方に目を合わせて言うように指導します。あいさつは社会生活の基本であるとともに、コミュニケーションの始まりだからです。

また、「○○をします」「それはしません」と指示したときに「はい」と目を見て返事するように教えます。いずれも適切な声量で言うように導きます。このように、あいさつし、「はい」と返事することにより、本人の中に「これから先生と学習する!」という前向きな気持ちと、指示を受け入れて応じる姿勢、学ぶ姿勢が生まれます。

ノートの取り方を学ぶ(算数)
ノートの取り方を学ぶ(算数)

教室に通う小学1年生(通常学級)を実例に、あいさつと返事の意味を考えます。彼は5歳で「自閉症」と診断され、言葉の遅れや多動がありました。医療機関や療育機関で相談しましたが、「遅れを受け入れて」と言われるだけです。幼稚園では指示を聞けず、所構わず寝転がったり、おうむ返しと独り言の多い状態で、もちろん数や文字の読み書きはできません。

教室で学習を始めたのは年長の夏でした。当初母親は、「80分間も座ってはいられない」と思っていましたが、彼は一度も離席せず、指示に応じられました。きちんと子供の目を見て分かりやすく教え、「はい」と返事をさせ、指示どおり行動するように教え続けると、子供は応じられるようになるのです。

家庭でも母親の指示に「はい」と返事をすることで、自分勝手な行動が少しずつ収まっていきました。家庭学習の習慣が付き、読み書き計算の練習を毎日続けるまでになりました。現在、感情や行動のコントロールとコミュニケーションの課題はあるものの、教室を見学に来た担任の指導の下、音読と漢字の読み書きにはずいぶん自信を持つようになり、大好きな給食を楽しみに当番もこなしています。

彼はクラスでちょっとした「あいさつのお手本くん」になりました。こうした事例を示すと、「あいさつだけできても仕方がない」と言い出す方がいます。子供たちが成長して、企業の実習や面接でほめられるのが、「気持ちのいいあいさつと返事ができている」です。大人でもあいさつや返事をしっかりできる人は少ないものです。職場を見渡せば分かるでしょう。

小1でしっかりとあいさつや返事ができるようになり、さまざまなことを学べるようになった男の子。練習を積み重ね、「応じる姿勢・学ぶ姿勢」、つまり「教わる力」を身に付けつつあります。