現代リベラルアーツ教育論~熱き心とクールな頭脳を育てる(2)Teach for America

eye-catch_1024-768_takeuchi_fin山梨学院大学国際リベラルアーツ学部 学部長補佐/認定NPO法人 Teach for Japanアドバイザー
武内隆明

「国の根幹は教育である」と、認定特定NPO法人Teach for Japan(TFJ)の創設者で、代表理事の松田悠介氏は繰り返す。(詳しくは、著書『グーグル、ディズニーより働きたい「教室」』を参照)。TFJは1990年に、米国の名門プリンストン大学の女子学生ウェンディ・コップが創設した、Teach for America(TFA)にそのルーツを持つ。「教育格差の解消」などの大きな目標を掲げ、そのヴィジョン・ミッションを追求し続ける、オバマ前大統領も絶賛した素晴らしい教育NPOだ。

TFAには、米国内の一流大学の卒業生が集う。彼らは原則として2年間、国内各地の教育困難地域にある学校に、常勤講師として派遣される。組織が掲げる目標を達成するため、生徒やその家族までも本気で巻き込み、寝食を忘れて試行錯誤を続けるのだ。

そのためには、全ての子供たちと効果的に向き合い、全員が平等に教育を受けられるように、たゆまぬ努力を積み重ねる必要がある。

変革には壁が付き物だ。人種差別や貧富の格差など、社会問題だけではない。現地の教育委員や先輩教師からも、「現存の慣例とは合わない」「新参者に無駄な波風を立てられるのは避けたい」といった反発を受け、悔し涙を流した例も少なくないと聞く。それでも、PDCAサイクルを回し続け、少しずつ現状を改善していく。

その過程で「熱き」心と「クールな」頭を体現し、ひたすらにポジティブな姿勢を貫く。困難に挫折することなく、発想を切り替えながら、目の前の子供たちのために行動を続けるのだ。こうして、2年の任期の間に、彼らは「熱き」心と「クールな」頭の原体験を、体に染み込むまで「習慣化」していくという。

「私は、失敗した事がない。ただ1万通りのうまくいかない方法を見つけただけだよ」とは、エジソンの言である。失敗を失敗と捉えて悲嘆するのではなく、新たな発見として頭を切り替えて、喜んで自分の糧にする。この心と頭の姿勢こそ、TFAで研さんを積む若者が得るものなのだ。

豊かな経験と強いマインドを備えて任期を終えた講師たちには、欧米の大手金融機関などがTFAの数倍の給料を提示して、引き抜きの交渉を仕掛ける場合も多いようだ。どんな困難にもひるまず、ひたすらPDCAサイクルを回し、目標に前進し続ける有言実行の若者。そのような人材はビジネス界においても引く手あまたなのは想像に難くない。

こうした事情から、TFAに内定した学生のほとんどは、「やはり、2年間必死でTFAで頑張ったら、大手金融会社などのヘッドハントに応じる」という考えを持っているらしい。このヘッドハントラッシュがあるがゆえに、TFAは、全米の人気就職先ランキングで常にトップ10以内の地位を維持している。

興味深いのは、過酷な2年間を切り抜け、直接子供たちと関わった講師たちの約7割が、任期を終えて先生として現場に残るのを願い出ている点だ。残りの約3割も、教育業界やその関係業界に留まる人が多いと聞く。

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