中学校道徳科の授業―道徳的判断力を養う―(7)授業実践④「手品師」

修正:eye-catch_togami東京都品川区品川学園 主任教諭 戸上 琢也

みなさんは、「手品師」という道徳科の教材をご存知だろうか。小学校の先生ならば、この教材を使って授業をした方も多いと思われる。

小学生の時に道徳の授業で考えた教材を、中学生になってもう一度考えたという実践を紹介する。大人も、ある絵本をわが子に読み聞かせたとき、子供の頃には気付かなかった大切なことに改めて気付く場面があるのと同様に、中学生にも小学生の頃には気付かなかった気付きがあるかもしれない。

授業では「手品師」を基に「誠実な生き方」について考えた。大劇場に出演することを夢見る売れない手品師が、チャンスを断って、男の子一人のために町の片隅で手品を演じる物語だ。

ある日、手品師は、しょんぼりと道にしゃがみこんでいた小さな男の子に手品を披露し、喜ぶ男の子に明日も必ず来ると約束する。直後に友人から、病気で倒れた評判の手品師の代わりに大劇場に出演しないかと誘われる。大劇場に出演するのは明日、男の子と約束したのも明日。大いに迷った手品師は、結局友人の誘いは断り、男の子の前で素晴らしい手品を演じたのだった。

「手品師」の実際の板書

授業では、男の子との約束を取るか、友人からの誘いであり、夢でもある大劇場での出演を取るか、手品師の葛藤について話し合った。判断力を養うため、板書の写真にあるようにネームプレートを活用し、手品師の葛藤を明示させ、その位置にいるのはなぜかを発表し合った。自分自身の生活と重ね合わせながら、手品師の生き方についてどう思うかを全体で議論した。

大劇場は二度とないチャンスだが、男の子と約束したから、破ることができないという意見が多く出た。手品師の生き方をどう思うかという問いでは、「自分なら大劇場を選ぶ、チャンスを逃したくない」という意見も出た。「約束に軽いも重いもない」と考える生徒もいた。「大劇場に男の子を一緒に連れて行けばよかった」ということを言う生徒もいた。そういう生き方もある。誠実な生き方とはどういう生き方なのだろうか。

生徒の言葉を借りると、「夢よりも約束を守るまっすぐな生き方」であるし、「夢を捨ててでも、一人の人のために頑張る。ものすごく、こだわりのある生き方」でもある。「自分の欲求より他人の幸せを考える人」なのだろうか。授業では、誠実な生き方への追究は終わることはなかった。いつもはやんちゃな生徒が「まじめにやっていれば、いつかはきっといいことがある」と発言する姿に、その子の意外な一面が見られた。道徳科の授業はこれだからおもしろい。

あなたへのお薦め

 
特集