世界の教室から ニュージーランドの教育イノベーション(中)

武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授 上松恵理子

世界各国の教育を調査研究してきた武蔵野学院大学の上松恵理子准教授による、ニュージーランドリポートの2回目。先日出産したジャシンダ・アーダーン首相が、一国のリーダーとしては世界初となる産休を取っていることも話題の同国。実は世界で初めて女性に参政権が認められた国でもある。教育においても、初等教育からファイナンシャルを学び、授業の選択制を取り入れているなど、世界の中でも先進的であることは、まだあまり知られていない。日本と決定的に違うニュージーランドの初等教育とは――。

時代に対応した新教科を設置 授業は小学校から選択制

小学校から「フィンテック」を学ぶ

ニュージーランドには小学校の入学式が無い。5歳の誕生日が入学日なので、一人一人、入学日が異なるからだ。

他にも初等教育においては、日本と決定的な違いがある。小学校の教科に時代に対応した新教科が設置され、その中にさまざまなコースがあるのだ。

教科「デジタル・テクノロジー」も、新教科の一つである。これは、教科「情報」的な要素もあるが、単にパソコンの使い方を教える授業の脱却から、この新教科が始まった。プログラミング教育はもちろんのこと、例えば木工の作業でレーザーカッターを使って行ったり、3Dプリンターを使ったりといった、技術の授業のIT版という要素も含まれる。

アンプラグドをグループワークで行う児童たち

教科「国語」以外に「ランゲージ」という教科があるのも特徴で、日本語、マオリ語、スペイン語など、さまざまな言語のコースを学ぶことができる。

また、公立小学校の正規のカリキュラムにある「ファイナンシャル」には、「フィンテック」の授業がある。これは教室内でしか使用できない仮想通貨を使い、子供たちの将来のニーズに沿った金銭感覚を培うものである。国内では4500人もの児童が授業を受け、中には週1回の授業を年間通して行う学校もある。

さらに興味深いコースとしてEnquiry(探究)があり、私の訪問した小学校は週2時間行われていた。ニュージーランドの小学校は日本に比べて、知識習得のための暗記などのインプットよりも、アウトプットを重視している。中庭で学習している児童らに向かって突然質問を投げかけても、自分たちの調べ学習の内容をしっかり答えることができた。

一人として同じ時間割はない

小学校でもコースによって使用する教室が異なるので、一つの教室で視察をしていると、毎時間、教室内の学習者のメンバーと数が異なっていて驚いた。つまり、多くの日本の小学校のように1日中、同じクラスの児童と同じ先生に学ぶことはなく、自らが選択するというスタイルなのである。どのコースも選択可能であり、一人一人の生徒がそれぞれの目標に沿ってコースを選んでいる。高校ではその傾向は顕著で、100近いコースがあるため一人として同じ時間割はないという学校もある。

今、世界の教育は一斉教育ではなく、個々のニーズに応じた教育方法がスタンダードになりつつあるため、その点においてもニュージーランドは先進的である。ちなみに、各自選択しているコースの活動状況や成績は、学習者のアカウントで管理されている。

高校の教科「デジタル・テクノロジー」では新コースが続々
「デジタルテクノロジー」のコース「メカトロニクス」の授業で、ハンダ付けをしている様子

5月2日に見学したBurnside高校は、日本の中学2年生から高校3年生にあたる生徒が通っている。ここだけでなく、国内のほとんどは中高一貫校的な制度を採用している。

見学した中学2年生クラスには、「インタラクティブゲームデザイン」のコースがあり、生徒はゲームのコンセプトを創造し、それぞれ独自のゲーム開発をしていた。Arduino(アルデュイーノ)を使ってラインをトレースするロボットを構築し、C++でプログラミングを行っている。学習者は興味のあるコースを選ぶが、公立中学校の授業でもプログラミングキットの教材費がかかる有料のコースもある。

ニュージーランドでは、小学生段階で授業中にブログやホームページを作成し、高校に入ると「デジタル・テクノロジー」という教科がある。この教科にはさらに多くのコースがあり、コンピューターサイエンス、ゲームデザイン、フード・テクノロジー、マテリアル・テクノロジーなどの100近いコースがある。ちなみにゲームデザインの授業は、インタラクティブなグループワークのスタイルで、さまざまなプロジェクトを学習者がそれぞれ行うものである。