世界の教室から ニュージーランドの教育イノベーション(下)

世界各国の教育を調査研究してきた、武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部の上松恵理子准教授によるニュージーランドリポートの最終回。ニュージーランドの教員の働き方や、何歳になっても学び直しができるリカレント教育の保障とは――。


教務もクラウドで情報化 教員研修はSNSも活用

教えることに専念できる教員

ニュージーランドでは、ITによって教員の負担も軽減されている。まず、学校の連絡や学級通信が紙媒体で届けられることは無い。保護者と教員とのやりとりも、ネットを介すか対面でのやりとりのみである。児童は端末を使って自分のアカウントでログインし、学校から配信される1日20通ほどのメールに対応している。授業の映像は保護者が閲覧できるようになっており、授業参観の回数も減ったという。

また、ニュージーランドのPTAはPAとなっている。Tである教員は、教えることに専念することが必要という理由で変わったのだ。

活発な情報交換の場として活用されているサロンのような教務室

SNSを活用した自主的な教員研修

教員は新しい教科に対応するために、最低週1回研修を受ける。カンタベリー大学では25人の教師に対して、プログラミング教育のための研修を行っていた。研修を受けた教師らは、それを自分の学校に広めてカリキュラムを見直したり、時間割や教科指導にあたったりしているケースもある。

また、教員同士のネットコミュニティーがあり、それらをインタラクティブに利用し、教員たちが自主的に研修を行っている。

このコミュニティーは、私がインタビューした高校の教科「情報」の主任が立ち上げたものである。最初は教科「情報」を担当する高校教員が中心のSNSだったが、それがカリキュラムの変化により、中学校と小学校の先生にも広がった。授業でICT機器を使用することに恐怖感を持っている教員が多いため、立ち上げられたという。

ICT機器の扱いに特別優れた教員の成功例を上げるのでは意味がないというコンセプトで、投稿の中心は教員らの不安感を素直に述べたものだったり、授業の失敗事例をあげたりという、日本では想像できない内容である。普通の教員が全ての教科でICT機器を使うことができるようになるためのコミュニティーなのだ。

教務室は教員の活発な情報交換の場

ニュージーランドでは学習者一人一人のデジタルポートフォリオがあり、教員が共有している。また、教員と生徒がクラス内のSNSを使って、授業内容や宿題をシェアしている。授業の動画を見てから授業に臨むという反転授業は日常的に行われている。テクノロジーの進化スピードが速いため、情報スキルが追いつかない教員もいるが、そういった場合にはパソコンが得意な生徒などの力を借りることもあるという。

また、ニュージーランドの教務室は、どこに行ってもサロンのようにコーヒーやお菓子がたくさん置かれている。実は日本のように静かに執務を行うスタイルの教務室は、海外で見ることは少ない。理由としては、海外では授業が教科横断型やプロジェクト型にシフトしているため、授業が終わる度に教員が授業の進捗(しんちょく)と内容を即時に伝え合うのが必要不可欠となっているからだ。教務室は教員の活発な情報交換の場なのである。校長も授業と授業の間に教務室に来て、授業を終えた教員から情報を得る場にしている。

授業でうまくソフトを使いこなした児童を撮影し、リアルタイムで保護者に投稿する教員

リカレント教育の機会を財政面でも保障

さて、最後に日本とニュージーランドでは教育制度が大きく異なることを理解しなくてはならないだろう。ニュージーランドは学歴社会ではなく、能力主義である。また、リカレント教育の機会が財政的な面でしっかりと保障されている。就職してみたものの急に大学に行きたくなっても、学生になるための失業保険的な補助があり、小・中・高・大の授業料が無料である。

例えば、自分の興味がある分野に就きたいときには、学歴を気にせず、すぐに専門学校に行く。その後、また学び直して別の分野に行きたい時には、教育費を気にせず大学に入りなおし、他分野に就職するといったようなケースはごく普通のことである。日本のように、大学3年生になると一斉に就活を始めるということもない。また、専門学校には保育所の設置義務があるため、朝、子供連れで通うという姿も珍しくない。

このように働き方改革とセットで、何歳になっても目的を持って大学に行き、これまでとは異なる職業にトライできる環境がある。ニュージーランドには、日本の将来に参考になる点が多々あると感じている。

(おわり)

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