LibrariEの可能性~電子図書館を活用した学校教育の未来(7)紙も電子も使える学校図書館へ

立命館大学教授 湯浅俊彦

学校図書館が電子書籍の電子資料をあえて利用しないということは、デジタル・ネットワーク社会の今日、極めて重要な情報源を最初から無視することになります。例えば、近年、文学作品の電子化が進んでいますが、作家の個人全集は紙媒体で刊行することがコスト的に困難になっており、電子版しかないという事態が進展しています。

2010年6月に電子書籍として刊行が始まった「小田実全集」(小学館)は、2014年5月に4年の歳月をかけて完結しました。収録作品の半数以上が絶版だったため、作家の集大成が電子書籍でよみがえったといえるでしょう。

「小田実全集」の場合は、電子書籍版とオンデマンド版で同時出版する日本の出版業界では初めての試みでした。オンデマンド版とは、あらかじめ紙媒体の本を印刷して販売するのではなく、需要に応じて(on demand)、注文があれば紙媒体の全集を印刷し、提供するものです。

13年5月から「開高健電子全集」全20巻(講談社)が、各巻に生原稿や当時の担当編集者の解説を付けて配信を開始。18年2月には「開高健電子全集完結記念写真集 誰も見たことのない開高健」(企画・文・構成 滝田誠一郎)が世に出ました。

12年10月に刊行した「三浦綾子電子全集」の場合、三浦綾子記念文学館所有の秘蔵写真や夫である三浦光世氏が見た創作秘話など、多くの巻に追加編集の項目が入りました。紙媒体を電子化しただけではありません。

開高健は1989年、三浦綾子は99年、小田実は07年に亡くなっています。紙媒体では「開高健全集」全22巻(新潮社、91年11~93年9月)、「三浦綾子全集」全20巻(主婦の友社、91年7~93年4月)が刊行されていますが、小田実は、主要な著作を網羅する初の本格的な個人全集です。

今後、作家が亡くなり、個人全集が企画される場合、紙媒体で刊行されるのは極めてまれなケースになるでしょう。なぜなら研究者などごく一部を除き、紙媒体の個人全集を購入する読者は少なく、図書館市場だけをターゲットに出版社が刊行できるほどの購買力を日本の図書館が持たないからです。

三浦綾子電子全集は、「北海道旭川市出身の作家、三浦綾子の生誕90周年を記念し、全単独著作を電子書籍化した全集」として、札幌市図書館が「札幌市電子図書館」で市民に提供しています。仮に郷土作家の電子全集が刊行された場合、それを生徒に提供できる学校図書館はどれだけあるでしょうか。

電子も紙も著作物を利用者に提供する重要なメディアだという認識を学校教育で根付かせなければ、学校図書館は「情報センター」ではなく、「正倉院」になるでしょう。

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