元東京都日野市立小学校長 京極澄子
「指導の工夫」により、授業への参加意欲や理解が進むという結果が得られました。しかし、指導の工夫だけでは、「分かった」「できた」に到達できない子もいます。
そこで、授業内で行う「個への配慮」や授業外での「困難さに特化した指導」が必要になります。いずれも、個の困難さを的確に把握し、必要な配慮や支援を検討・実施し、それが有効だったか評価することが大切です。
「個への配慮」は、丁寧に子供を見取る、本人の自尊心を傷付けないよう目立たなく支援する、学びの過程で褒める、がポイントです。ふりがな付きの教材や課題の量の軽減などの配慮は、プリントの表と裏に両方を印刷し、どちらを使ってもよいことにすれば、全体への支援にもなります。ヒントカードもみんなが使える設定にすればよいです。
通級指導など「困難さに特化した指導」は、「通常学級の学びを支えるもの」と新学習指導要領で示されています。教科の専門性を磨くことが必須です。
C君は、4年生で九九を完全に覚えられず苦戦していました。「算数で考えるのは好きだけれど、計算はできない」と投げやりでした。
そこで、まず、九九の意味を確認しました。これはよく理解できていました。次に、一緒に九九表を使い、覚えているものには赤いシールを貼っていきました。かなりの九九にシールが貼れました。具体的に「できること」と「できないこと」を視覚化したのです。
次に、九九表の仕組みを尋ねると、2×9と9×2などが表の上で対応していることに気付きました。どちらかが言えたら、もう一方も言えることを発見し、それを2人で「逆さ九九」と名付けました。
この方法で今までできなかった九九を見直すと、赤シールが増えました。残りはどちらから唱えても確実ではないもので、4組ほどしかありませんでした。
私は「もう覚えなくて大丈夫。あなたは、九九の仕組みが分かっているから、分かる答えに数を足せばいい」と伝えました。1週間後、彼は「全部覚えたよ」とニコニコ顔で報告してくれました。苦手をクリアするのに、本人の意欲が何よりも大切なことを教わりました。
困っている子供が教師を鍛える宝なのだと、実感させられた出会いでした。
(おわり)