漫才づくりが教育を変える(1)「笑育」とは何か


東京理科大学教職教育センター准教授 井藤 元

変化の激しい現代社会。この荒波を乗りこなすためのヒントは意外な人々が持っているかもしれない。今やテレビなどのメディアで欠かせない存在となっている、漫才師たちである。

松竹芸能は2012年より「笑い」と「教育」を掛け合わせた「笑育(わらいく)」の開発をスタートさせ、筆者は15年より本プログラムの監修に携わることになった。講師はプロの漫才師。メインの課題は漫才づくりである。

笑育とは何か説明を求められた際、1本の映画を例に挙げることにしている。1984年公開の映画「ベストキッド」である。主人公はいじめられっ子の少年ダニエル。物語の中で彼は空手の達人に弟子入りし、修業を重ねる中で成長してゆく。この映画、修業の場面が面白い。師匠から与えられた課題はワックスがけやペンキ塗り。空手と何の関わりがあるのかと主人公は不満を抱く。だが、一見雑用にも見える作業を通じて、期せずして空手の型が見事に身に付いていたのである。

「笑育」の授業風景

笑育における漫才づくりは、「ベストキッド」におけるワックスがけのようなものである。漫才をつくることでいったいどんな力が付くというのか。単なる余興なのではないかと批判されたこともあった。だが、答えはプロの漫才師の中にある。

彼らは、コミュニケーション力やプレゼンテーション能力など、これからの時代に求められる能力を極めて高い次元で身に付けている。ネタづくりのためには斬新な発想だけでなく、物事を論理的に伝える力も求められる。コンビが互いの良さを引き出し合い、相乗効果を生み出すことができなければならない。たった2分の漫才をつくるだけでも一苦労。実に高度で複合的な力が必要となる。

漫才づくりをカリキュラム化することができれば、時代を生き抜く力を育むための有効なプログラムを生み出せるのではないか。笑育の開発に当たって、筆者はお笑い芸人、落語家、アナウンサーなど、松竹芸能所属のタレント34組計54人にインタビューした。

筆者は、彼らの言葉を教育学の知見を踏まえて翻訳し、要素を分析・整理して笑育指導要領を作成した。さらに、指導要領に記された項目を達成するための笑育メソッドを開発した。

教員養成に携わっている筆者にとって、漫才師たちの基本姿勢、視点、方法論、どれをとってもヒントの宝庫であった。これからの教師に求められるものは何か。道徳教育はいかにして可能となるのか。現在盛んに議論されているこれらの問いに、漫才づくりが大きな示唆を与えてくれる。