漫才づくりが教育を変える(4)汝(なんじ)自身の仁を知れ


東京理科大学教職教育センター准教授 井藤 元

前回は個性を絶対値で捉える芸人固有の価値観に触れたが、それは他者理解の場面のみならず、自己認識の際に決定的に重要となる。

「汝(なんじ)自身を知れ」。古代ギリシャのデルフォイの神殿に刻まれていたといわれるこの格言は、日々舞台で格闘する芸人たちにとって非常に切実な問題である。「汝自身」、それを彼らは「仁(にん)」と呼ぶ。「仁が分かれば売れる」「仁が出ている漫才は面白い」など、この言葉はさまざまな文脈で使用される。では仁とは何か。元々歌舞伎界の用語であり、容姿や人柄、声質など役者が持っている個性=その人らしさを指す。ある役柄が仁とうまくマッチしている場合「仁に合っている」と表現され、自然なパフォーマンスとして称賛される。だが、仁に合っていないと不自然さが現れ、すぐに観客に見破られてしまうのだという。

仁は漫才師たちに大きな葛藤をもたらすことがある。……

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