世界の教室から 北欧の教育最前線(4)スーパーティーチャーの影

「スーパーティーチャー」は底辺の生徒を救えるのか?

日本では大阪市長が、全国学力調査の結果を教員の業績評価などに反映させると表明し、大変な騒動になっている。そこで参考として、「困難校に優秀な教員を配置したら、成績は上がるのか」を実験したスウェーデンの番組を紹介したい。

スウェーデン公共放送(SVT)で2008年から放送されたドキュメンタリー番組「Klass 9A」(9年A組)では、全国から選ばれた8人の優秀な教員をスウェーデンで最も成績が悪い学校に送り込んだ。日本の中学3年生に相当する9年A組に「スーパーティーチャー」を配置し、B組は普通の教員を配置して、半年間の比較実験を行った。

A組の学級目標は「スウェーデンで3番以内の成績を取る」ことだった。8人のスーパーティーチャーは生徒とともに奮闘し、学期末までに成績は飛躍的に向上した。番組は高い視聴率を記録し、賛否両論の活発な議論を巻き起こした。

ロウカの不正を報じるウェブ記事(左)とシリーズのDVD

スキャンダルまみれのシーズン2

番組の成功を受けて、2011年からはオーレブロー市のミカエル基礎学校を舞台にした続編が放送された。今回は、例年半数程度しか取れない高校入学資格取得を全員に取らせることを目標に、スーパーティーチャーが困難校の教員を指導するという内容だった。

撮影前には番組制作会社が各家庭を訪問して説明するなど、入念な準備が行われた。学校も自治体も大歓迎だった。しかし、このシーズン2は終盤でスキャンダルまみれの展開となった。ナショナルテストの数学の問題が授業で教わった内容と同じだったと生徒が告発したのだ。

数学を担当するスタヴロス・ロウカはキプロスからの移民で、受賞歴もある優秀な教員だった。ロウカはシーズン1に抜てきされて有名になった後も、討論番組などでメディアに登場し、よく知られる存在になっていた。彼は不正疑惑が報じられると、テスト問題は事前には知りえないし、これまでの経験から問題の傾向はある程度予想できたと反論して不正を否定した。

これに対して、学校教育庁は不正があったとの認識を示し、校長もテストをやり直す必要があると述べた。一方で、市は後の調査でテストはカギのかかる校長室に保管されており、教師は事前に問題を見ることができず、不正はないと結論付けた。結局、A組は再テストを行ったが、結果は1回目に比べて成績が若干悪化した程度だった。

スキャンダルから何を学ぶか

北欧は教育の先進地域というイメージがあるが、国際学力調査でのスウェーデンの成績は悪い。特に移民の子供や男子生徒の成績が振るわず、長年の課題となっている。また、生徒数が増加し、好景気を満喫しているスウェーデンでは、待遇のわりにストレスの多い教職は人気がなく、常に人材不足に悩んできた。

教員は学校ごとの採用になるため、少しでも条件のよい学校に移ろうとする。そのため、教員が定着しない困難校では優秀な人材の確保が難しくなり、荒れ放題になっているところもある。

「Klass 9A」では、不利な条件に置かれた子供たちの生活をありのままに映し、劣悪な環境で奮闘する教師たちをフォーカスすることで、批判に晒(さら)される学校現場への理解を広めた。一方で、不正疑惑が報じられたことで、後味の悪い展開になってしまった。スーパーティーチャーは成績を上げたが、ミカエル基礎学校の評判は落ち、生徒が集まらなくなったため、2013年には校名変更と管理職総入れ替えをする事態になった。

同番組は多くの貴重な教訓を残した。果たして大阪市では、どうなるだろうか。

(林寛平=はやし・かんぺい、信州大学大学院教育学研究科准教授。専門は比較教育学、教育行政学)

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