世界の教室から 北欧の教育最前線(5)スウェーデン流お便り帳?

手ぶらで登園、お知らせはデジタル化

スウェーデンのプリスクール(forskola)に子供を入れて驚いたことがある。毎朝の持ち物がほとんどないのだ。着替えの服やおむつは定期的に補充する必要があるが、毎日の登園は手ぶらなのである。お昼寝も、大きな布団セットは必要なく、週初めにタオルケットや毛布だけを持っていけばよい。持ち物が少なくていいのは、朝の時間をひと手間でも省きたい親としては大助かりだ。

さらに、お便り帳や幼稚園からのプリントなど、紙のやりとりもない。そのような情報はすべてデジタル化されており、保護者はデジタルプラットホームにアクセスして、お知らせを確認する。そこで興味をひかれたのは、園やクラス全体に向けたお知らせだけでなく、自分の子供の園での様子を知ることができることだ。例えば、クラスで散歩に行ったときに何に興味をもったのか、部屋の中で積み木を使ってどのように遊んでいるのか、そういった日常の子供の様子が、折に触れて複数の写真や、時に動画とともにつづられていた。日本の園で見られる「お便り帳」がデジタル化されているような印象だ。

教育的ドキュメンテーションと質向上
ランチを食べたり、パズルやビーズで遊んだりする、あるプリスクールの部屋の様子

個々の子供の活動の記録は、実は単に様子を知らせてくれるだけのものではなかった。「学習ログ」として記録されていたのである。学期末の保護者面談のときには、「学習ログ」を見ながら先生が子供の様子を話してくれた。

スウェーデンでは、いわゆる幼保が一元化されている。1998年に管轄が社会福祉省から教育省に移るとともに、プリスクールのカリキュラムが策定されると、教育を担うという役割が強化された。「学習ログ」のような教育的ドキュメンテーションの実施はカリキュラムでも規定されており、子供たちの成長や学習を記録し省察することで、園の活動の質向上を目指すものである。

上述の「学習ログ」では、一つ一つの活動が幼稚園のカリキュラムのどの部分にあたるのか明記されていた。例えば、森に散歩に行ったときの活動は、「運動能力、協調能力、身体感覚を発達させるとともに、健康とウェルビーイングを守ることの重要性を理解する」「自然の中で自然科学や関係性についての理解を発達させ、植物、動物、簡単な化学過程や物理現象に関する知識を発達させる」といったカリキュラムの項目にひもづけられている。

こうした教育的ドキュメンテーションの活動が、スウェーデンのすべてのプリスクールで実施されているのだろうか。少し前だが、学校監督庁(Skolinspektionen)が2012年に出したリポートによると、その実態は園によって差があるようだ。また、もともと意図されている目的にはかなっていない事例も多々あるという。例えば、子供たちの絵や作品の写真を集めてファイリングはするが、そのファイルがしばしば「棚をあたためているだけ」のものになっていたり、活動の写真を撮って壁の上方に飾ってあるが、子供や保護者には見えないものになっていたりする、といった事例である。

何を記録し、どう活用することで質の向上につなげるのか、その理解と実践にはばらつきがあるようだ。一方、デジタルプラットホームやタブレット端末などの普及で、写真や動画を簡単に撮影してアップロードできるようになり、保管と活用が容易になった部分も多いだろう。

こうした技術の活用も広がる中で、スウェーデンのプリスクールにおける「学習ログ」や「質向上」の取り組みがどのように進められていくのか。その行方に注目したい。

(中田麗子=なかた・れいこ ウプサラ大学教育学部客員研究員。専門は比較教育学)